むむむ、どうしたものか。今日は、乾先輩の誕生日な訳だが、わたくしみょうじなまえは非常に困っている。なぜなら、今日の部活後にやる乾先輩のお誕生会のお誘いを、乾先輩に気付かれないように行うという大役を授かってしまった。どうしよう、なんて言ったらいいか解んない。そもそも、いつも乾先輩に行動や思考を当てられてしまう私が、あの乾先輩を出し抜くなんて出来るんだろうか?まず無理に近い。手塚部長も人が悪い。なんで私なんですか。手塚部長には、レギュラー陣が誘ったらすぐバレるからと言われてしまったんだけど。確かにそうだ。でも、私でも普通に解るのでは?まぁ、部長命令なら仕方ない。ちゃちゃっとお誘いしちゃいましょー。

『ぜんっぜん思い浮かばん…』

一日あればすぐいい口実くらい思い付くでしょーと気楽に考えていたけど、なーんにもいい案が出ない。そしていつの間にか放課後になり部活の時間。やばっ!時間ないじゃん!部活中に誘わなければ!どうやって誘おう…よし、勉強を見てほしいとかでダメだろうか?ま、まいっか。あとは、気付かれないようにさりげなく…。…意外と乾先輩って色んな人に捕まってて一人にならない。うわー時間なくなってきちゃったよー!

「みょうじ、ちょっといいかな。後半の練習について少し、相談があるんだ」
『は、はい!』

やった!乾先輩から話しかけてくれた!もうここしかチャンスはない!しくじるなよ、私!

『あの、乾先輩!』
「なんだい、どうかした?」
『あの、ご迷惑でなければ放課後、その…数学を教えていただきたいんですが…』
「あぁ…そんな事。俺で良ければ構わないよ。じゃあ部活後、部室で良いかな」
『はい!お願いします!』
「じゃあ、また後で」

よっし!誘えた。自然に出来ていただろうか。そう祈るしかないな、うん。いやいや、何はともあれきちんと出来てよかった。私は、少し遠くで全体の様子を見ている手塚部長に親指をぐっと立てて任務が完了した事を乾先輩に気付かれないように報告すると手塚部長も、うんと一度だけ頷いて、声には出さず口だけで"油断せずにいこう"と言った。そうだよね、ここで手を抜いてバレてしまってはせっかくのパーティーが台無しだ。私はそのあとマネージャーの仕事をこなしつつ、合間を縫って部室の飾り付けを急いだ。そして部室が終わり、更衣室から出てきた乾先輩をそのまま部室の前まで連れていき、先輩がドアを開けた瞬間…ぱーんぱーんぱーん!中で待ってた皆が一斉に先輩に向かって用意していたクラッカーをならした。クラッカーのテープまみれになった先輩は、ドアを開ける時の動作のまま、ぽかんとした表情で止まっていた。

「…驚いたな。みょうじからは何かしてもらえると思ってはいたが、まさかこんな事を企んでいたとは…」
『やった!乾先輩驚きました?大成功ですね、手塚部長!』
「あぁ」
「やったね!なまえちゃん!」
「君のおかげだね。ありがとう」
「皆からは朝のうちに祝いの言葉もプレゼントも貰っていたしな。すっかり騙されたよ」

乾先輩の目は残念ながら眼鏡の反射で見えないけれど、でも、確かに嬉しそうに笑ってくれた。私たち青学テニス部は皆、少し変だけど、賢くて優しくて頼りになる乾先輩が大好き。そんな先輩が生まれた日をこうしてお祝いできることを私はとても幸せに思う。改めておめでとう、乾先輩!!

*ハッピーバースデー!乾!!
(20130603)
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