ちらっ。ちらっ。びくぅ!幸村君が真っ青な顔で後ろを振り返る。部室に置いてある姿見を見ながらヘアバンドを付けている彼の背後に立ち、一瞬だけ姿を現す。そして鏡越しに彼と目が合い、振り向いた瞬間、また姿を消す。幸村君は何だったのかと訝しげな表情を浮かべまた、視線を鏡に戻す。私は幸村君の後ろに立ったまま暫く彼を見詰める。するとまた彼は後ろを振り返る。今回は別に姿を現してないんだけどなー。幸村君の事じっと見詰め過ぎちゃったかな?もう一度幸村君が鏡に向きなおした所で他のメンバーが部室に入って来た。柳君が幸村君の表情を見て、「どうかしたのか」と問い掛けると彼は表情を強張らせたまま「実は…」と話し始めた。


「今、鏡越しに俺の後ろに誰か立っていたんだ…」
「精市…」
「ごめん、多分気のせいだな。俺、きっと疲れているんだ」
「…精市も見たのか」
「えっ?」


柳君の言葉に驚いた幸村君は思わず声が裏返っちゃったみたいだ。いつも冷静な幸村君の意外な所見れてラッキー!と思ってたら、部室にいた他のメンバー達の表情もなんだか暗くなっていた。皆、幸村君のような事に遭遇してるから幸村君の事笑えないんだろうなー。何を隠そう、私、この立海大附属中テニス部の部室に住み着いてる幽霊なのです。なんで、自分が死んで幽霊になっているのか、なんで、ここに留まっているのかは全然覚えてないけど、私はいわゆる地縛霊というもので、ここから出る事は出来ない。あ、テニスコートくらいなら動けます。皆の名前はここに住み始めてすぐに覚えた。柳君が言ってたお前もっていうのは、ここにいる皆が一度は私の事を見ているから。私、気付いたらここにいて、しかも自分が死んでいるのに気付かず、この部室にいる人に片っ端から話し掛けようと試みたら、こんな事態に。まぁ、この子達からしたらいるはずのない人間の姿が見えるんだから怖いよね。私だったら怖い。でも最近は自分の能力?も扱えるようになってきて、姿を自在に現す事が出来るようになった。でも、まだ私が話し掛けようとすると、勝手に電気が消えたり、物が動いたりと、俗にいうポルターガイスト現象と呼ばれる物が起きてしまう。


「お前も、って…皆も見ているのかい?女の子の姿…」
「あぁ。俺達も一度は見知らぬ女子を見掛けている」
「それだけではない。時々、誰も居らんのにいきなり物が動いたり、机が揺れたりもしている」
「俺とジャッカルらこの間、二人でいるときに勝手に電気が消えたぜぃ」
「特に電球が切れた訳でもなく、な」
「俺は故障でもないのに携帯がおかしくなった時があったぜよ」
「俺もッス!」
「とまぁ、皆さん何かしらこの部室で不可解な現象に遭遇しているのですよ…」


あぁ、ごめんなさい。私がいることを分かって欲しかっただけなの。私とお友達になって欲しかっただけなの。やっぱり、こんなの気味悪いよね…。でも、私だってどうしたらいいのか分からないの。なんで、ここにいるのかも、どうしたら成仏出きるのかも。せめて、せめて、お友達が欲しかった。それだけだったのに。


(『ごめんなさい。私…お友達が欲しかっただけなの』)
「な?!」
「女の子がいるぜよ!」
「俺がさっき見た子だ!」


あれ、私、気持ちが昂って勝手に、姿を現してしまった…?でも、今まで、一度も彼らと意志疎通が出来なかったけど、今は出来てる?私はこのチャンスを逃す事は出来ない。


(『わわ、私と!お友達になってください!』)


意を決して口を開いた私とは裏腹に彼らは口をぽかんと開けて、驚きと恐怖が入り交じった複雑な表情をしていた。

(20130618)
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