「みょうじ、歯を食いしばれ」
『え、あの、ええええええ?!』
ちょっとこれどういう事なんです?!どうして私は恐ろしい形相の日吉に今にも殴られそうになっているんです?!私なんか日吉にこんなむっちゃ怒らせる事した?!いやいやいや!そんなバカな!だって私達仲良しクラスメイトじゃん!友達がいない日吉の鳳以外の唯一のお友達じゃん!なんならソウルメイトじゃん!
「俺はお前と友達になった覚えはないぞ」
『あらやだ、私の心を読まないでよエスパー日吉!』
「お前の口からだだ漏れなんだよ馬鹿めが」
でもでもほんとに私、日吉に怒られる事なんてしたっけ?いつも通り日吉の髪型をバカにしたり授業中にちょっかいかけたり、日吉のぬれせん食べたり色々したけど、文字通りこれはいつもの事なので日吉はそんな事で怒ったりしない。では何故、今、私の目の前で日吉がこんなに怒っているのか。あ、もしかしてもしかすると…。
『…さっきの聞いてたの?』
「……偶然だ」
『まじか』
やっぱりか…。実はわたくし、先ほど、見知らぬ先輩とやらに告白を受けていたのです。裏庭で。まだ、恋とか愛とかよくわかんないし興味もなかったので、丁重にお断りをしたところ、何故なのか、何故俺ではいけないのか、と理由を問いただされ面倒になったので、大抵の人はこれで引いてくれるだろうと思い、跡部先輩には後で謝っておこうと思いながら先輩が好きだからと適当に答えてしまった。まぁ、見知らぬ先輩は案の定あっさり引いてくれてので良かったーと思っていた訳です。しかし、それを日吉は聞いていたと。ふむ、困った。恐らく彼は、私が適当に答えた事をわかっている。そして、そんな事に尊敬する跡部先輩を使われて憤慨している、と。そういう事だろう。
『ごめん、日吉』
「何に対してのごめんだ」
『さっき、好きでもないのに跡部先輩の事好きって言ったから…?』
「疑問形かよ」
『それくらいしか思い付かないんだけど、違う?』
「そうだけどな」
『ごめんね、大好きな跡部先輩をこんな事に使われて怒ってんだよね?』
「…はぁ?」
私がそう言うと日吉は心底馬鹿にしたように溜め息を漏らし、そして私を心底残念なものを見るような目で見た。なんだよ、その目は!さっきまで、あんなに怒ってたくせに今は呆れたような表情をしている。
「みょうじ、お前、本当にそんな事考えてんのか?」
『え、違う…の?』
「はぁ…。お前は相当馬鹿だと思ってたが、これほどまでとはな」
『どどどどういう事よ?』
「なんで、さっき、あの男の告白を断る理由にわざわざ跡部さんの名前出すんだよ」
『は?』
なんで、跡部先輩って…そりゃ、跡部先輩って言っとけば、この氷帝で知らない人なんていないし、何より、学校一のイケメンでお金持ちの先輩が好きって言われたら、大人しく引き下がるしかないと思ったからで…。日吉に『じゃあ誰なら良かったの?』って聞いたら日吉はチッと舌打ちをして、「そんな事もわかんねぇのかよ」と俯いてしまった。なんだ、この反応。これじゃあ、まるで…まるで。
『日吉が私の事、好きみたいじゃないか』
「…悪いかよ」
(20130614)