何故俺が彼女にこんなにも執着しているのか、俺にも解らない。みょうじなまえはクラスでも比較的目立たない生徒で、言うなれば平々凡々。同じクラスながら一度も会話した事が無く、俺自身も全く興味を持っていなかった。だが、ある日の体育の授業中、男子は外でのサッカー、女子は体育館でバレーだったその日、俺は怪我をしてしまったクラスメイトを保健室に運んだ時に彼女が居た。彼女はどうやら機材設置の時に誤って腕を切ってしまった様だった。白い肌に真っ赤な血を流している彼女に俺は目を奪われた。彼女は、こんなにも肌が白く可憐な少女であったか。彼女の腕はこんなにも細く、折れてしまいそうな程だったか。彼女は、こんなにも美しかったか。この世のすべての生き物より、彼女が美しく見えた。その日からだ、俺はみょうじなまえに興味を持った。


あれから、彼女に関するデータを集め始めた。彼女の個人情報から家族構成、住所や自宅の電話番号。彼女の友人関係等、彼女に関するありとあらゆる情報という情報を調べあげた。そして、今まで全く興味が無かった彼女を目で追うようになった。教室に居る時だけでは無い。休み時間、放課後、彼女が友人と笑っている姿、授業で当てられて困っている姿。目を奪われてしまう。しかし、足りない。俺はいくら彼女のデータを調べて、ノートを消費しても満足する事は無かった。俺は解っていた。そう、この間の様に、血を流している彼女を見たい。あの、白い肌に鮮やかな鮮血が流れている所をもう一度見たい。


『痛いっ…!!』
「ちょっとなまえ大丈夫?」


みょうじなまえの観察を始めて二月程経ったある日、美術の授業中にそれは起きた。その日は彫刻刀を使って小さな彫り物を作っていた。ある男子が彼女の後ろを通る際にぶつかってしまい、彼女は誤って自分の手を切ってしまった。彫刻刀で出来た傷は思いの外深く、彼女の手からは血が次々と溢れ、滴り、手だけでなくみょうじなまえの脚や制服までもが彼女の血で染まった。みょうじなまえは自分から流れる多量の血を見て失神してしまい、一時クラスは騒然となった。俺は全身を血で濡らし眠る彼女にこの世の物とは思えない程の美しさを感じ、言葉を失った。ぶつかった男子が保健室へ連れて行こうとした時、この機会を逃してなるものかと、俺はすかさずその役を買って出た。出血している手を自分のタオルで巻き、彼女を担ぎ上げ、保健室へと運んだ。保険医が応急処置を済ませ、念の為彼女が目覚めた後に病院へ連れていく為の準備で席を外している時に俺はそっと彼女に触れた。初めて触れる彼女の肌は柔らかく、吸い付く様な感覚で、目眩がした。彼女の白い肌を今ではすっかり空気に触れて赤黒く変色し、乾いた血が汚している。俺にはまるで彼女が、この世のすべての物よりも清純で、この世のすべての物よりも不純な生き物に見えた。そして俺は、彼女の腕を持ち上げ、血が付着している所をぺろりと舐めた。俺はもう、元には戻れないだろう。君は俺にとって禁断の果実だったのだ。


「嗚呼、背徳の味がする」


*柳さんが変態に目覚める話し
(20130612)



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