どうして、私がこんな目に遭わなくちゃならないの。どうして毎日毎日、陰湿な嫌がらせや嫌味を言われたりしなくちゃいけないの。初等部から仲が良かった友人達が、中等部に上がり、急に服装や見た目が派手になり、言動や行動も荒れ、今までの彼女達からは想像出来ない様な人間になってしまった。私はそれに付いて行けず、だが、今まで仲良くしていた事もあり一緒に居たが、2年に上がってしばらくしたある日、それは始まった。特に喧嘩した訳でも無い。彼女達曰く、"なんとなくうざい"だそうだ。そんな理由で私は毎日こんな惨めな思いをしなくてはならないのか。きっと彼女達には暇潰しか、ゲームくらいにしか思っていないだろう。私はこんな下らない事に負けて人生を棒に振りたくはない。だから絶対に何年続いても学校は通いきってみせるし、あれから一度も休んでいない。それでも、こうも毎日続くと辛い。親には心配掛けたくないから相談なんて出来ないし、私の目の前はどんどん真っ暗になっていく。本当は学校に行くのも辛いし、今すぐ逃げたしたい。でも、逃げる訳にはいかない。折角、氷帝に通わせてもらっているのだから。

『…また』

朝、下駄箱を開けるとそこにある筈の上履きがなく、替わりにたくさんの暴言が書かれているであろう紙がこれでもかというくらいくしゃくしゃになって入っていた。毎日の事だからこれはもう慣れた。私はその紙を読みもせず、捨てようとゴミ箱に近付くと、そこには私の上履きが既に捨てられていた。これもいつもの事。決めた、もうこれから上履き持ち帰ろう。教室に入ると、これまた私の机の中には下駄箱と同じ様な紙がたくさん入っていた。これも捨てる。どうせ書かれている事はいつも決まって"うざい"だの"キモい"だのいわれもない中傷だ。私がイジメに遭ってからというもの、同じクラスの人は目も合わせてくれないし、話しかけてもくれない。まぁ、皆自分が一番可愛いし、わざわざ火の粉を被る様な事はしないだろう。期待もしていない。実際、私が傍観者の側ならそうしていると思う。

「なにあれー。友達からの手紙読まずに捨てるとかひどくなぁーい」
「ほんとほんとー。最低だよねー」
「まじうざーい」

ぎゃあぎゃあと教室に響く彼女達の笑い声がうるさい。何が友達からの手紙だ。気色悪い。そんな風に思ってもない癖に。私は彼女達の声を聞いていたくなくて教室を出た。あぁ、戻ってくる頃には机にまた紙が一杯入れられてるんだろうな。どこか人がいない所をと私は屋上に出て、入り口上の貯水タンクの陰に隠れる。。最近は、授業中にも悪口を書かれた手紙や物をぶつけられるので、サボる事が多くなってしまった。だいたいはここに来る。ここは人が居なくてとても落ち着く。ここは、敵意も、哀れみの視線も向けられる事はなく、ただただ、独りになれる。

「おい、もうすぐ授業が始まるぞ」

もうこのまま一限はサボってしまおうと寝転んで眠りにつこうとした時、頭上から声がして目を開くと日吉君がいた。日吉君は同じクラスだけど、話した事は無いし、彼が誰かと話している所は見た事がない。なのに何故、今彼は私にわざわざ声を掛けてきたのだろう。それにさっき教室に居た時、彼も教室に居た筈だ。しばらく彼の言葉に返事をせずにいると、日吉君は「おい、聞いてんのか」と少し苛立った様に言って私の隣にどかりと座り込んだ。

「授業、始まるぞ」
『行かない。ここに居る事、言わないでね絶対』
「お前、最近授業出てないだろ。どうすんだよ」
『勉強はちゃんと家庭教師と塾でしてる。元々頭は良い方だし、困ってない。それに中学は授業出なくても留年とか無いから大丈夫でしょ』
「そういう問題じゃないだろ。先生方が心配してる」
『それも大丈夫。授業の先生達には身体があまり丈夫じゃないから良く体調崩して保健室に行くって言ってある。初等部の頃からの事だから担任も知ってる』
「だからってサボって良い理由にはならないだろ」
『じゃあ、日吉君はイジメられるのわかってるのに授業に出て、紙くずや消しゴムをぶつけられて来いって言うのね』
「………」

日吉君だって私が嫌がらせされてるの知ってる癖に。どうして、あいつ等の為に私が惨めになるような事わざわざしなきゃならないのよ。まぁ、彼にとっては所詮他人事だからか。彼は私がイジメられているという事よりも、クラスで授業を受けない生徒がいるという事の方が大事なのだろう。私が居ない事でクラスに気まずい空気が流れるのが嫌なんだろうか。私がクラスに居ても気まずいのは変わらないと思うんだけど。ちらりと日吉君の方を見ると、日吉君は何だか複雑そうな顔をしていた。他の人が私に寄越すそれとは違う、感じがする。

『なに、その顔』
「あぁ?どんな顔だよ」
『私に聞かれても』
「………」
『………』

しばらく沈黙が続いて、私はそろそろ眠りにつこうと日吉君に背を向けてまた目を閉じた。すると日吉君がまた口を開いて「おい」だなんて言った。なんで、私が寝ようとするとそうやって声かけるかなぁ…。もう一度日吉君の方に向き直して目を開けた。

「だから、授業」
『行かないって』
「逃げんのかよ、あいつらから」
『はぁ?』

正直、腹が立った。何で日吉君にそんな事言われなくちゃいけないのか。日吉君だって他のクラスの奴らと一緒で、私が嫌がらせをされてても助けてくれないで見てるだけの癖に。そんなのイジメてる奴らと同罪の癖に。私は起き上がって日吉君の前に立つとこれでもかっていうくらい軽蔑の眼差しを向けてやった。日吉君も私が露骨な態度をとったからか、顔付きが変わり少し怒っている様だった。だからなんであんたなんかにそんな顔されなきゃいけないのよ。

『あんただって、イジメてるあいつらと一緒じゃない』
「あぁ?」
『あんたも!クラスの奴らも!私がイジメられていても見てみぬ振りで何もしない、あいつらと同罪よ!!』
「それはお前が何も言わないからだろ。お前は一度でも俺達やあいつらの前でこんな事は止めてくれと言ったか?お前は何も言わず、何も行動を起こさず、ただただあいつらを甘んじて受け入れてるじゃねぇか。他の奴等は知らないが、俺は何も言わない奴をわざわざ助けてやる程のお人好しじゃないんでね」

私は日吉君の言葉にハッとした。私は、自分が嫌がらせを受けたあの日から一度でも彼女達に嫌だと、止めてと言っていない。ただ、彼女達の行動を甘んじて受け入れて、誰も助けてくれない、クラスの奴らも、あいつらも皆悪いと思って、自分は何もしない。誰かが助けてくれるのを待って悲劇のヒロインを気取っていただけなのだ。いくらでも抵抗しようと思えば出来たのだ。悪いのは全部私。私がただ黙る事しかしないからあいつらを付け上がらせて放置した。親に心配かけるからとか、自分に都合の良いように口実を作って、結局は私は逃げていたのだ。日吉君が、私の手を取って「行こう」と言った。きっとこれは戦おうという意味だと思う。私は頷いたは良いもののやっぱり恐い。いざ、あの教室に向かうと思うと足がすくむし、手が震える。でも、日吉君の目を見れば大丈夫だと思えた。

『ありがとう、日吉君。私、負けない』
「お前が一言助けてと言えば俺はいくらでも助けてやるよ」
『日吉君がいれば大丈夫な気がするよ』
「大丈夫だ、お前は強い」

(20130601)
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