「ねぇ、今日石田の家に行くから着いてきてくんない?」

伊武君からそんな事を言われたのは今から1時間程前。今日、風邪で休んでしまった石田君にプリント等を渡すよう伊武君が担任の先生に頼まれたらしい。何故、私にも着いてくるよう言ってきたのかというと、先生が学級委員の私に石田君がどんな様子だったか見てきて欲しいとのことだった。私は掃除当番だったので伊武君には少し待ってもらう事にした。掃除をできるだけ早めにすまし、急いで教室に戻るとまだ結構な人が教室に残っていて、みんな仲のいい友達と会話に華を咲かせている。その中で伊武君が自分の席に座って静かに待っていた。

「あ、思ったより早かった…」
『ごめんね、待った?』
「俺が掃除当番じゃない時点であんたを待ってると思うんだけど」
『そうだね、じゃあ行こっか』

私は自分の荷物を取ると石田君の家に向かうべくクラスの子との挨拶もそこそこに教室を出た。伊武君も私の後を追うようにして教室を出る。二人下駄箱で靴を履き替えている時に、自分が石田君の家を知らない事に気が付いた私は念のため、と伊武君に聞いてみることにした。

『私、石田君の家知らないけど伊武君知ってる?』
「石田の家知らない奴にプリント渡しに行かせてどうするんだよ。…まったく、そんな事くらい少し考えたら分かるだろ。やんなっちゃうなぁ」
『あはは、ごめんごめん。そうだね。じゃあ、伊武君に着いて行くね』
「勝手にどっか行ったら置いてくからね」
『ひどいなー伊武君。女の子置いてくなんて』
「…嘘だし」
『ふふ、知ってる』

私が先に靴を履き替えてたので土間を出て振り替えったら伊武君が靴を履き替えたのに何か考えているような表情でそこに立ったままだった。私がどうかした?と聞いてみたら伊武君は「いや、別に…」と言って彼も土間を出た。

『石田君の家どの辺?』
「こっからそんなに遠くない。15分くらい」
『伊武君の家と近いの?』
「まぁね。橘さんの家も近いよ」
『あ、なんだ。じゃあ、私の家の方だ』
「ふーん」
『ということは伊武くんとも家が近いね』
「そうだね」

なんて、伊武君は私が話すくだらない事もぼそぼそとではあるけどちゃんと返してくれた。思ってたより伊武君って優しいんだなーと思っていると伊武君が「ここ」と一軒のお家の前で立ち止まった。表札には石田の文字。石田君の家は私の家からそう遠くないところだった。インターホンを鳴らそうと伊武君の方を見たらまた何か考えるようにして伊武君が黙っていた。

『どうしたの?伊武君』
「いや、あんたってさ思ってたのと違うなって」
『どういうこと?』
「…俺がこういう話し方してるの女子とかって感じ悪いとか恐いとか言うんだよね。でも、あんたは違うなって」
『私、伊武君とあんまり話したことなかったけどそんな風に思ったことないよ?』
「ふーん。どうだか」
『それにたった今伊武君は結構優しいなーって思ってたとこだし』

私がそういうと伊武君は「結構ってなんだよ」と言っていたけど少し照れているようだった。普段学校ではクールな伊武君の可愛いところを見てれ少し得した気分。私の顔がにやにやしていたのか伊武君が私をちょい、と小突いてきた。

『伊武君、意外と可愛い人だね』
「うるさいよ」

*二人がお近づきになるため鉄くんは犠牲になったのだ。
(20130504)
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