最近、なんだか乾先輩が恐い。元から少し変わった先輩ではあったけど、とても物知りだし頭も良くて、お話しすると面白い人なので私は結構仲良くしてもらっていた、と思う。けど、この頃部活中に部員の皆さんにドリンクとかタオルを出している時とかにふと視線を感じて、そっちの方に目を向けると乾先輩が何やら恐い顔をしてこっちを見ているのだ。最初は、休憩中の皆さんのデータを集めているのかなと思っていたけど、私が一人でいる時とかもこっちを見ている事が多い。別にお話しするときは今まで通りだから私の思い違いだといいんだけどちょっと恐い。私、何か失敗でもしたんだろうか。
「…みょうじ」
『は、はいっ!』
「なんだか最近、様子がおかしいね。何かあった?」
『い、いえ…私は特には…』
「そうか。ならいいんだが…何か困った事があれば俺でよければ相談くらいなら乗ってあげられると思うよ」
『はい…』
やっぱり、お話ししてるときはいつもの乾先輩だ。こうして私の心配をしてくれる。ほんとに私、先輩に迷惑かけてないだろうか?いや、先輩の事だからきっと自分からは絶対に口にはしてくれないだろう。でも、私がなにかしたなら謝りたい!えーい言ってしまえ!
『あ、あの!乾先輩!』
「どうした」
『お聞きしたいことが!』
「何かな?」
『私、なにか先輩に粗相をしてしまったでしょうか?!』
意を決して言ってみたものの、正直こわくて目をぎゅっと瞑っていたらいつまでたっても先輩のお叱りの言葉がくることもなく、私は恐る恐る目を開けて再び乾先輩の方を見た。そしたら先輩は「特に君に対して怒るような事はないけど…」と少し首を傾げていた。なんだか先輩が首を傾げている姿が妙に面白かった。
『え、でも最近こわい顔で私の方見てましたよね?』
「そうかな」
『あの、休憩中とか…』
「…あぁ、気付かれてしまっていたのか…」
『?』
乾先輩は少し気恥ずかしそうに咳払いをひとつしてくいっと眼鏡を上げた。そして先輩のトレードマークともいえる、何人もの選手のデータが書き込まれているであろうノートを取りだし、ぱらぱらと捲りあるページを私に見せてきた。
「ここ最近、君を見ていた理由だよ」
『…みょうじ、なまえ』
「君のデータを取っていた」
『あの、ただのマネージャーの私をなんでですか?』
「さぁ。解らない、自分でも解らないんだ。君のデータを取っても取ってもね」
そういって乾先輩は少しだけ私との距離を縮めて私の肩に手を乗せて、「君を休憩中に恐い顔で見ていたというのは恐らく、君と他の奴らが楽しそうにしていたからだよ」と呟いた。私は先輩の言ってる意味がよくわからなくて、はぁ…としか言えなかったけど、先輩はくすりと笑い、そのまま私の肩に置いていた手を私の頬に移動させ一撫でした。
「どうやら俺は君の事が好きなようだ」
(20130501)