My Dear5


「君下の彼女?」
「へあ!?」
「違うの?」
「ち、ちちちちがいます!!!」

顔を真っ赤にした新入生と思われる女子生徒は、ぶんぶんと千切れんばかりに両手を振って否定した。校門の壁に背を持たれる俺と、その横に立つこの女子生徒の前を、恒例行事の外周ダッシュを食らった1年が次々と走っていく。今日の外周の理由はなんだったか。速瀬と国母あたりが、声が小さいだか部室が汚いだか言っていた気がするが。入学当初は毎日のことなので、あまり覚えていないのだ。俺らも去年は散々食らった。国母がモテるから、なんて理由の時もあったくらいだし。俺たちの少し先で、灰原がストップウォッチを片手にガードレールに腰掛け、1年に喝を入れている。

「・・・・・・ん?」
「あ、いや・・・」
「・・・あ。なんでそう思ったか気になるのか?」
「ハイ・・・」
「だって食い入るように君下のこと見つめてただろ」
「え!!??」
「ははは」

不安そうに俺の顔を覗き込んできたこの女子生徒は、次の瞬間耳まで真っ赤にして、顔からぷしゅうと蒸気を出している。ころころ変わる表情がおかしくて思わず吹き出すと、外周中の1年が不思議そうに俺たちを見つめ、走り過ぎて行った。

「わ、わたし、そんなにわかりやすいですか!?」

泣きそうな顔で俺を見上げるこの子がおかしくて、また笑ってしまいそうになる。

「まあ、あれだけ見つめてちゃなあ」
「完全に無意識でした・・・」

束になって走っている部員の中から真っ先に君下を見つけ出し、見えなくなるまで君下だけをずっと目で追っていた。なんというか目がきらきらしていて、側から見ても「ああ恋をしてるんだろうなあ」と思わせる表情をしていたから。あの君下に、こんな可愛らしい想い人がいるなんて。・・・これは面白くなりそうだ。

「あの、違うんです。わたし、君下の幼馴染で」
「あ、そうなんだ」

なるほど。あの集団から一瞬で君下を見つけられたのも、追いかけてきた年季の違いだろうか。

「はい。・・・望みないんですけどね」

諦め切れなくて。そう呟いたこの子は恥ずかしそうに、困ったように、むずかしい顔をして笑う。この2人になにがあるのかはわからないが、なんだかこの子はいじらしくて、応援したくなるような子だなあと思う。

「きみ、名前は?」
「へ?あ、はい、名前です。6組です」
「俺は臼井雄太。2年だ」
「うすいさん」

臼井さんは、サッカー上手そうですね。にこにこと笑いながら俺を見上げる名前の背後、一周してきた君下の姿が小さく見える。俺と一瞬目があった気がしたが、その後すぐに俺の隣の人物を見て目を丸くする。もう一度、俺を見た君下の視線は決して優しいものではない。

「臼井さんは何県出身なんですか?」
「石川だよ」
「へー!すごい!ポジションはどこなんですか?」
「CBだけど、まあどこでもある程度いけるかな」
「臼井さん、やっぱりサッカー上手いんですね」
「はは、そんなことないよ」

威嚇。牽制。そんな言葉がぴったりな視線を、生意気な後輩は俺に寄越す。名前は望みがないと言う割に、まるで自分の所有物のように「そいつに手を出すな」とでも言いたげな目で俺を睨んでいる。目つきが悪いのは今に始まったことではないが、明らかにこれは敵意だ。お前、そういうのを嫉妬と言うんじゃないのか。

「おい君下」
「あ?」
「お前だけ10周追加」
「はあ!?なんでだよ!!」
「生意気に牽制しやがって」
「ああ!?意味わかんねー!!」


2019.10.7





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