「名前さん!」

一緒に授業を受けていた友人と別れ、次の講義の教室まで向かう。次の講義は諏訪と一緒だ。もう着いているだろうか。連絡をしようとスマホをポケットから取り出そうとしたところで、突然呼ばれた自分の名前に振り返る。

「あ、堤くん!」
「・・・どなた?」

振り返った先で片手を小さく振る堤くんの隣から、びっくりするくらい美人の女の子がひょっこりと顔を出した。セレブオーラを溢れさせているその子は、さらりと長い髪を靡かせ、首を傾げて堤くんを見上げている。

「名前さんだよ」
「はじめまして、名前さん」
「こっちは加古ちゃん」
「はじめまして、加古さん」

その圧倒的なオーラに、思わず畏まってぺこりと頭を下げれば、堤くんと加古さんが目を合わせ、揃って笑い出した。「私、年下ですよ」と言い加えた加古さんに驚いてすっとんきょうな声を出せば、また二人が笑う。・・・だ、だって。年下とは思えないほど、セクシーで大人っぽいんだもん。
色素の薄い瞳。すらりとしなやかに伸びた手足。艶のあるロングヘア。わたしよりも背が高いのに、美しくて女の子らしい。思わずうっとりと、口から言葉が溢れてしまう。

「綺麗だねえ」

ぽろりとこぼした感嘆のため息に、加古さんは元々大きな目を更に大きく見開いた。長いまつ毛がくるりと上がっていて、それがとても可愛らしい。

「名前さんって、堤くんの彼女?」
「違うよ、諏訪さんの彼女」
「ええっ!?」

ち、違うよ!!諏訪とは高校からの同級生で、友達で、その、あの。
あまりにもしどろもどろになって必死で否定するわたしを見て、二人はまた揃って吹き出した。

「すみません、ちょっと揶揄いたくなっちゃって」
「つ、堤くん!?」
「名前さん、諏訪さんのことが好きなのね」
「なんでわかるの!?」

思わず大声でそう問えば、やっぱり二人は笑い出す。な、なんか堤くん、いつもよりSっ気が強い気がするのは、気のせい?それに、なんだかこの二人、相性が良さそうだ。二人とも、一見物腰柔らかそうなのに、なかなかに腹黒い気がする。
・・・ちょっとこわい。

「ごめんなさい、笑ってしまって」
「だ、大丈夫だよ」
「名前さんが、あんまり可愛くて」
「・・・か、可愛い?・・・わたしが?」
「ええ、とっても可愛いわ」

散々二人に揶揄われた自分の顔は、鏡を見なくてもわかるくらい、真っ赤になっているだろう。加古さんに翻弄されるわたしをのほほんとした表情で見守っていた堤くんが、菩薩のような微笑みでまたとんでもないことを言う。

「名前さんは、可愛いですよ」
「・・・ほ、ほんと?」

嬉しくなって堤くんにも聞き返せば、その返事が返って来る前に、こつんと頭を小突かれた。驚いて隣に立ったその人を見上げれば、噂をすればなんとやら。諏訪がいつも通りの気怠そうな表情で現れた。
・・・ま、待って。さっきの話、聞かれてないよね?

「おいこら堤、名前で遊ぶな」
「思ったことを言っただけですよ」
「え!」
「おめーもデレデレすんな!」

諏訪は険しい顔つきでわたしを叱る。揶揄われただけだとしても、可愛いってこんなに言われたの、久しぶりなんだもん。にやける口元を抑えきれずにいれば、諏訪からまた鋭い視線が突き刺さる。

「諏訪さん。私、名前さんのこと気に入ったわ。今日から私たちライバルね」
「おい、なんでそうなる。つーかなんの話だ」

わたしの手を取った加古さんが、「今度ランチでも」と麗しく微笑む。至近距離から圧倒的美に悩殺され、思わず大きく頷けば、堤くんが笑って、諏訪は大きなため息をついた。





- ナノ -