あ、諏訪と同じゼミの女の子。
ちっちゃくて、ふわふわのロングヘアに可愛いネイル。くるっと上がったまつ毛に、ひらひら揺れるスカート。
・・・可愛いなあ。ああいう子が、まさに可愛いと言うのだろう。わたしとは似ても似つかないくらいに正反対。きっと諏訪のタイプは、ああいう柔らかそうな雰囲気の女の子なんだろうなあ。

「諏訪か」
「!?」
「男の趣味が悪いな、お前は」
「か、風間・・・」

ばくばくと鳴る心臓を押さえて振り返れば、相変わらず何を考えているのかわからない表情で、風間が諏訪を見つめている。
風間とは大学に入ってすぐ、諏訪の紹介で知り合った。出会った時は、堅物で冗談の通じないくそ真面目な人かと思っていたけれど、風間は結構いたずら好きでユーモアもある。今もこうして、諏訪のことですぐにあたふたするわたしを見て、してやったりと楽しそうに口角をあげていた。
自分のことにはとんと鈍いくせに、わたしの片思いにいち早く気づいたのは、風間だった。

「あの子、可愛いなあと思って」
「諏訪と話しているやつのことか?」
「うん」

背の低い彼女が、諏訪を柔らかい表情で見上げていた。諏訪は怒ったようにつっこみを入れたり、何かを思い出すように目線を上に向けたりと、その表情を忙しそうにくるくる変える。そうしてあの子の前でも、顔をくしゃりとさせて笑っていた。楽しそうで、お似合いで。わたしにだって何度も見せてくれたことのある笑顔のはずなのに、胸がちくちくと痛み出す。

「さっさと諏訪に告白すれば良いだろう」
「ちょっと!!」

慌てて風間の口を塞げば、ふがふがと言いながら紅い瞳で責めるようにわたしを見上げている。辺りを見回し、誰もいないことを確認してから、そっと塞いだ手を離した。
そりゃあ、風間みたいに男気のある性格だったら、きっともうとっくに言っているよ。
そう心の中でぼやいたのをまるで読み取ったかのように、風間はわたしに向かってため息をつく。

「お前は俺を見て、可愛いと思うか?」
「ううん。風間はかっこいいよ」
「つまり、そういうことだ」
「・・・どういうこと?」

風間は自分で言ったくせに、聞いてももう知らんぷりだ。仕方ないから自分で考えることにする。
風間は背が低いけれど、誰より男気があってかっこいい。見た目だけでは可愛いと言われるかもしれないけれど、中身は誰より男前だ。つまり、風間の言う「そういうこと」とは、見た目と中身は必ずしも一致しない、ということ・・・?
わたしの勘違いじゃなければ、風間は風間なりにわたしを励ましてくれているのかもしれない。
ようやく答えを導き出したわたしを見て、風間がこくんと小さく頷く。

「いつまでもうじうじするのはもうやめろ」
「・・・」
「変わりたいなら、変わるしかない」
「・・・うん」
「わかったならいい。お前ならできる」
「・・・風間、ありがと」

わたしを正面から見据えた風間が、ようやくその表情を緩ませた。風間は他人に厳しいけれど、自分にはもっと厳しい。だからこそ、その言葉には重みがあるし、真っ直ぐに心に響く。はっきりとしたその物言いには、不器用なりに、わたしを思いやる気持ちが伝わってくる。

「わたし、可愛くなれるよう努力するよ」
「ああ」
「風間、ありがとう。頑張るね」
「フラれたら慰めてやる」
「ひどい」

仕返しにぐしゃぐしゃと風間の髪を逆立てれば、風間はされるがまま鬱陶しそうに眉間に皺を寄せる。それでもなんだか楽しそうに見えてしまうのは、わたしの自惚れだろうか。

「おい、お前らさっきから何楽しそうにしてんだよ」
「諏訪か」
「諏訪かってなんだ」

相変わらず、風間は諏訪の扱いが雑だ。そんな風間にヘッドロックを決めた諏訪の腕の中で、風間は今度こそ露骨に鬱陶しそうな顔をしていたので思わず笑ってしまう。大雑把と生真面目、二人はでこぼこな感じがするのに、昔からびっくりするくらいに仲が良い。
隣には、さっきまで女の子と話していた諏訪がいる。わたしたちを見つけて、あの子との話を切り上げて来てくれたのだとしたら。なんだか性格がわるいけれど、正直嬉しいと思ってしまう。

「名字、寺島が今日バーガークイーンに行こうと言ってたぞ」
「行く!」
「決まりだな、連絡する」
「やったあ、久しぶりの雷蔵だ!」

きゃっきゃするわたしたちに、今度は諏訪が眉間に皺を寄せ、盛大に舌打ちをする。

「俺、防衛任務なんだよ!別の日にしろ!」
「知ってる。せいぜい頑張れ」
「てめえ!わざとだな風間!」

また始まった口喧嘩に、あはは、と声に出して笑えば、わたしにまで諏訪の怒りが飛び火してしまったようで、ぽかんと頭にげんこつが落ちて来た。




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