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「すみません、突然押しかけちゃって」
「ううん。ちょうどバイト終わったとこだったし。久しぶりにみんなに会えてわたしも嬉しいよ」
「そうですか。それなら良かった」

「おサノが久しぶりに名前さんに会いたいって言い出して」と、堤くんは目尻を下げてちょっぴり困ったように笑う。当の本人は、メロンソーダにさしたストローをくわえ、デザートのメニューを見つめて眉間に皺を寄せていた。うーん、可愛い。どの角度から見ても可愛いし、こんな表情だって可愛いんだからすごい。

「なんかわたしの顔についてる?」
「あ、ごめん。可愛くてつい見惚れちゃった」

おサノちゃんがメニューから顔を上げ、面食らったようにわたしをその大きな瞳で見つめた。・・・あ、まずい。わたし、また思ったまま口から出ちゃったみたい。お互いを見つめたままフリーズするわたしたちを見て、隣であはは、と堤くんが声に出して笑い出す。

「名前さん、素直だなあ」
「ご、ごめん。気持ち悪かったよね」
「ううん。ありがとう、嬉しいよ」

綺麗なアーモンド型の瞳を細めておサノちゃんが笑うから、わたしはどきどきと胸がときめいてしまう。こんな顔で見つめられて、諏訪隊のみんなはよく平然としていられるなぁ。わたしならいつまでも慣れる気なんてしないや。


バイトが終わり、店を出たところでぞろぞろと見知った顔が連れ立って歩いてくることに気がついた。ようやくわたしの視線に気づいたおサノちゃんが駆け寄ってきて、名前さんに会いにきたんだよー、とのんびりとした口調で得意げに笑う。その後ろに、いつも通り菩薩のように微笑む堤くんと、はにかむように笑って会釈をする日佐人くんが続く。バイトが終わったならお茶でも、と本屋向かいのファミレスまで四人で向かうことになったのだった。

「これからね、すわさんと合流してごはん行くんだー」
「そうなんだ。じゃあ軽いものがいいね」
「うん」

いちごパフェとチョコバナナパフェ、どっちにしよっかなー。少し間延びしたいつもの声で、おサノちゃんは声に出して悩んでいる。そうして長らく睨めっこしていたメニューをぱたんと閉じ、決めたと顔を上げた。ごはんの前にパフェなんて食べて、お腹いっぱいにならないのかな?と心配になるけれど、おサノちゃんの可愛らしく上がった口角がなんとも愛らしくて、まあいいかと思い直す。その隣で、にこにことおサノちゃんを見守っていた日佐人くんがタイミング良くベルを鳴らす。うーん、察しがいい。日佐人くんはすぐにオーダーを取りにきた定員さんにすらすらと注文を伝え、メニューを回収し、元の位置に戻す。まだ若いのに、なんと気がきくのだろう。多分これは堤くんの功績な気がする。きっと、諏訪ではない。

「諏訪さんは今、隊長会議に行ってるんですよ」
「へえー、会議なんてあるんだね」

はい、と元気よく返事をした日佐人くんの瞳は、きらきらと真っ直ぐで眩しい。こんな綺麗な目で見つめられたら、諏訪も悪いことはできないだろうなあ、と思う。逆に言えば、こんな子に慕われてるんだから、やっぱり諏訪は良いヤツなんだろうなあとも。

「ねえ、名前さん」
「なに?」
「すわさんのこと、いつから好きなの?」

注文した商品を待つ間、みんなの近況を聞く役に徹し油断し切っていたわたしに、おサノちゃんからどストレートな質問が直撃した。待ってましたと言わんばかり、きらきらと澄んだ大きな目でわたしを見つめる日佐人くんと目が合う。そんな期待の目で見られたら、適当に誤魔化すのもなんだか申し訳ない気がしてしまう。
・・・ていうか、なんでこの人たち、当たり前にわたしが諏訪を好きなこと知ってるの?

「えーと、」

じっと、期待に満ちた三人の視線がわたしに突き刺さっている。・・・これ、言わなきゃだめかなあ。諏訪に隊員であるこの子たちを紹介されてから一年ちょっと、数回しか会ったことのないはずなのに、わたしはみんなの前で、そんなにバレバレの態度を取っていたんだろうか。頼むから日佐人くん、そんなに目を輝かせてわたしを見つめないでほしい。

「・・・えっと、高校三年の時、かな」
「「「へえぇぇ」」」

にんまりと三人の目元が弧を描いている。そんなに昔から好きだったんですね、と頬を赤くさせた日佐人くんがわたしを微笑ましそうに見つめている。うんと年下の子にこんなに優しい視線を向けられるなんて、さすがに恥ずかしすぎるんだけど。

「それで、諏訪さんのどんなところが好きなんですか?」
「げっ」
「聞きたーい!」

堤くんの仏の様な笑顔が、わたしには「言え」と言っているように感じる。そのとんでもないプレッシャーに、わたしは逃げることを早々に諦めた。

「気づいたらもう好きだったから、ここが好きになった、って言うのはないんだけど・・・」
「うんうん」

三人が揃って首を振り相槌を打つ。やっぱりこれ、言うの恥ずかしすぎる。でも三人とも目を輝かせてわたしの答えを待っているし。
・・・もう、どうにでもなれ。

「裏表のないところはもちろんだけど、ああ見えて実は優しくて、人の気持ちによく気づくくせに、そうと見せないように振る舞うところとか、かなあ」

改めてどこが好きか、と聞かれると、正直答えに困ってしまう。優しいところも、照れ屋なところも、ちょっといたずらっ子なところも、全部好きなのだ。ここが好き、というよりも、好きなところを一つ挙げる方がむずかしい。
恐る恐る三人を見渡せば、ゆるゆると表情を緩ませて、満足そうにわたしを見つめている。

「なんかわかる」
「はい、オレもわかります」
「何この公開処刑・・・」

向かいで高校生二人がうんうんと腕を組み神妙な面持ちで頷いているものだから、あまりの羞恥心に両手で顔を覆う。高校生の前で、何恥ずかしそうに好きな人の話なんてしてんの、わたし。
そんなわたしをおかまいなしに、「でもねえー」とおサノちゃんが悩ましげな声を出す。

「すわさんって、鈍いからねえ」
「え?諏訪は鋭いよ」

諏訪は人の気持ちによく気づく。嬉しいことがあった時も、へこんでる時も、ちょっと体調が悪い時も、わたしは諏訪に隠し通せたことはない。
それなのに、諏訪隊の三人は意味あり気に目配せをする。

「だって名前さんがすわさん好きなの、バレバレだもん」

ねー、とおサノちゃんが二人に同意を求めれば、二人はにこにこと笑って何も言わず、温かい視線をわたしに向ける。・・・ま、待って、わたしってそんなにわかりやすいの!?あまりの恥ずかしさに固まったままのわたしの前に、頼んだいちごのミニパフェが運ばれてきた。





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