予備校の帰り道。ぐうぐう鳴るお腹を押さえながら帰宅していた。今日の最後の講義、ずっとお腹鳴ってたな。隣の男の子、めっちゃこっち見てた。きっとドン引きしてたに違いない。

今何が食べたいかな。ハンバーガー、牛丼、・・・ラーメンだ!
そんなことをあれこれ考えながら歩いていたら、もう高校の近くまで来ていたらしい。
もしかして、三井がいたりして。
そんなわけ、なんて思って少し前を見やれば、見知った制服姿を見つけた。あの後ろ姿、カバンには、わたしがあげたストラップがついている。間違いない。

「みーつーいー」
「?」

おお、少し驚いた顔で振り返った部活帰りの三井が、わたしに向かって軽く手を挙げた。三井は初め、わたしが駆け寄るのをその場で待っていたけれど、途中でわたしの方に向かって歩き出してくれた。

「おつかれー!」
「おー、お前もな。バイト?」
「今日は予備校」
「そうか。・・・送ってくよ」
「え、いいよ」
「いいから」

三井には優しい時があるのが不思議。いつもデリカシーなくて口悪いくせに、たまあに女の子扱いされると、どうしていいかわからなくなる。いつも一人で帰っているから大丈夫なのに、こうやって女の子扱いされて心配されるのもむず痒いし、そもそも送って欲しくて三井に声かけたわけじゃないし。三井が優しくなる時、二人でいると、いつもみたいな軽口が叩けなくなって少し困る。

「腹減ったな」

三井はポケットに手を突っ込んで、少し腰を屈めて隣を歩く。
うん、と頷けば、お前はいつも腹減ってんだろ。と笑った。なんだと!

「ラーメン食べ行くか?」
「えっ」
「あ?」
「なんでわたしがラーメン食べたいってわかったの?」

はあ?三井は不思議そうに首を傾げて、知らねえ、ただオレが食いたかっただけだ。って真面目な顔をして言う。なにそれ。二人してラーメン食べたいなって思ってたってこと?ウケる。

「けどお前、親がごはん作って待ってんじゃねえか?食えなくなっちまったら、親に悪いだろ。・・・なんだその顔」

こんなこと言う人が、この前まであんなヤンキーだったなんて信じられない。絶対三井って育ちが良い気がする。わたしのぽかんと開いた口を見て、三井は不思議そうにしている。

「帰ったらそれも食べるから大丈夫」
「お前ほんとに女かよ」
「またそれ!?」

そうと決まればあそこのラーメン屋行こうぜ。三井は真っ白な歯を見せてにいっと笑う。・・・ちょっと眩しくて、悔しい。今の三井とラーメン、すごく似合うだろうな。

躊躇うことなくお店ののれんをくぐった三井は、いらっしゃいませと元気良く迎えてくれた店員さんに指で2、としながら二人です、と伝えた。
それからすぐに案内されたカウンター席に並んで座る。

「決まった?」
「おう。お前は?」
「うーーん」

三井はさっさと注文を決めてしまったようで、早く決めろよ、とわたしをせっつく。だってメニューいっぱいあるし。うんうん唸りながらメニューと睨めっこしているわたしを、さっきの発言とは打って変わって、三井は何にも言わずに見守ってくれている。

「ごめん、決まった!」
「オッケー」

「すみませーーん!!」
「!?」
「なんだ?」

ほんとに声でかかった!!
日直の時声でかそうって思ったけど、やっぱり注文の声バカでかい。ざわつく店内で、三井の大きな声はよく通る。こういう時、堂々とできる三井の存在は頼りがいがある。さすが、スポーツマン。
わたしは醤油ラーメンを頼んで、三井はチャーシュー麺と半チャーハンセットを注文した。
やったあ、もうすぐ念願のラーメンが食べられる。

「三井と帰りに会えて良かった」
「・・・そうかよ」

三井は水をごくごく飲み干して、おかわりを注いでいる。
まだラーメンきてないのに。

「部活どう?」
「まあ、ぼちぼちだな」
「わたし、三井の試合観に行くの楽しみなんだよね」
「・・・っそ」
「シュート決まればいいけど」
「てめえ」

いつも通りの口喧嘩をしていると、あっという間にラーメンが到着した。美味しそう。三井がん、と割り箸を渡してくれたので、お礼を言ってぱきんと割る。いただきます、という声が三井と被ってしまってちょっと笑った。

「美味しいー」
「うめえなやっぱ」
「ね、三井。チャーシュー一枚ちょうだい!代わりにナルトあげるから!」
「いらねえよ、・・・ほらよ」
「やった!ありがと!」

三井はチャーシューをわたしのラーメンにそっとのせてくれた。ナルトはいらないって言ったくせに、ちゃっかりつまんでむしゃむしゃ食べている。
鼻水を垂らしながら食べていると、それに気づいたのか三井が黙ってティッシュ箱をわたしの前に置いてくれた。・・・こういうとこ、むず痒い。

「ごちそうさま」
「え、はや、ごめん」

やば、わたしまだ半分くらいある。あっという間に食べ終わった三井は急かすでもなく黙って隣で待ってくれている。急いで食べるね、そう言って箸のスピードを速めれば、三井はわたしのコップに水を注ぎながら言う。

「ゆっくり食えよ」

なんか最近、三井のこと悪いやつじゃないな、って思うことが増えた。意外と人のこと見てるし、気にかけてくれているのも伝わるし。口は悪いけど、案外優しい時もある。

「あ、」

何その顔。三井がゆっくりとこっちを見てくる。何。嫌な予感。

「204円しかねえ」
「最悪」




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