「二限の終わりから何食ってんだよ」
「ふぁふふぁんお」
「何言ってんのかわかんねえや」
「・・・カツサンドだよ!」

まだ二限の終わり。号令が終わったか終わってないかのところでカバンからコンビニの袋を取り出した名字は、紙パックの紅茶やら何やらを机に広げ、勢いよく音を立てパンの包みを開けた。男子高校生かよ。ハムスターみたいに口いっぱい満足げに頬張る名字をじっと見ていたら、オレの視線に気づいたようで、サンドイッチとオレの顔を交互に見始めた。

「ご、ごめん、あげないよ」
「いらねーよ!!」

そういうことじゃねえんだよ、シンプルにお前の食欲にびっくりしてたんだよ。
あっという間にカツサンドを食い終わった名字はもう一度オレの顔を見て、それからあ、と何かを思い出したような顔をした。

「そういえば、」

・・・なんだよ、嫌な予感しかしないんだが。
再びがさごそと自分のカバンを漁りはじめた名字は、あれーないなー、ここに入れたはずなんだけどー、と呑気に間延びした声で何かを探している。
・・・こいつはほんっとにマイペースだな。

「あ、あった!」

どうかオレに関係ない話でありますように。

「はい、これ」
オレ宛だった。

あげる!
そう言って名字は、綺麗にラッピングのされた小さな袋を満面の笑みでオレに差し出す。こいつからのプレゼントなんて、いよいよ嫌な予感しかしないんだが。別にプレゼントが嬉しくないわけじゃない。全てはこいつの日頃の行いのせいだ。

「・・・オレに?」
「なんだよその顔」
「いや・・・」
「いらないならあげない!」

名字が言葉のわりにしょぼくれた顔をするもんだから、お前がオレにプレゼントなんて気味悪いから遠慮する、とは流石に言えなかった。なんだろう、こいつからラッピングされた何かをもらうって、・・・なんだ?怖いだろ普通に。

「いるって」
「全然欲しそうじゃないんだけど」
「いや・・・欲しい」
「めっちゃ目死んでるじゃん」

ちょっとふてくされたように、名字はラッピングされた袋をん、とオレに突きつけた。

「開けていいか?」
「うん」

木暮から、この前三井の誕生日だったって聞いてさ。教えてくれれば良かったのに。一緒にお祝いしたかったな。

そう言った名字は、隣で唇を尖らせている。
は、なんだそれ。とんでもない肩透かしをくらったオレは、どんなに間抜けな顔をしているだろう。そうか、誕生日。誕生日プレゼント。・・・なるほど。いや、名字がオレにプレゼント?
っつーかよ、もう18になるってのに、自分から今日誕生日だなんて言いふらすわけないだろ。そんなんだせーし。

「この前家族で旅行に行って、そのお土産」

なんかね、ご当地キャラらしいよ。早く開けてよ。キラキラした顔で、オレが握ったままのプレゼントが開封されるのを待っている。オレ、リアクションとか上手じゃないけど大丈夫か。

「どう?可愛くない?」

え・・・。
ご当地キャラって、もっと可愛いやつじゃなかったか?だいたい二等身で、目がまんまるで。なんかこれって。
・・・き、・・・も・・・

「なんかね、キモカワでいま人気らしいよ」
「やっぱりキモいやつじゃねーか!!」

ほら見たことか!やっぱりこいつがオレにまともなもん送ってくるわけねえよな!焦ったぜ。

「キモくないよ、キモカワ」

犬・・・?人・・・?犬みたいな体に人間みたいなやけにリアルな顔がついている。キモいってかもはや怖いんだけど。暗闇とかで急に視界に入ってきたら怖いんだけど。

「誰かに似てると思わない?」
「・・・いや、ワカンネ」

わかんねえ、だけどこれに似てるって、最早シンプルな悪口な気がする。

「正解はー、三井でした!」

ほら、眉毛のシュッとしたとことか、ちょっと垂れ目なとことか、三井っぽくない?
これ見つけたとき、プレゼント何あげようかずっと悩んでたんだけど、これしかないって思ったんだよねー。
何が面白いのか、にこにこにこにこ。そんなに嬉しそうに言われたら、何も言えねえだろ。

「部活のバッグにつけてもいいよ」
「いやそれは」
「え」

見るからにしゅんとするな。そんな変なストラップつけてたら宮城や桜木に何言われるかわかったもんか。木暮なんて生温かい目で黙ってサムズアップしてきそうだし。
・・・勘弁だ。

「き、気に入らなかった?」
「そういうわけじゃ」

ないわけじゃないが。まあなんか気恥ずかしいだろ。普通に。オレが急にカバンにストラップなんか付け出したらよ、徳男とかにも・・・おいおいおい、そんなにこっちを見るんじゃねえ。・・・わーったよ!!

「ありがとな!」

変な顔した変なストラップをカバンにつけてお礼を言えば、名字はどこかほっとしたような顔で、嬉しそうに笑っている。だからまあ、恥くらいかいてやってもいいかという気になってしまう。
・・・なんかオレ、こいつに振り回されてばっかりだ。

「じゃーん!見て!実はわたしも買っちゃった!」

へらへらしながら、通学鞄に変な顔してぶら下がっているそれを見せつけてきやがった。

「お揃いだね!」

なんなんだこいつ!



「ぶははは、三井サン、なんすかそのくそダサいストラップ」
「るせっ!」




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