ピピ、とホイッスルが鳴り休憩が告げられた瞬間、暑いだの疲れただの言いながらみんなぱらぱらとコートから散って行く。体育館の隅に置いていたドリンクとタオルを手に取って、コートサイドにいる珍しい顔に向かって歩き出す。

「ちゅっす」
「あ、宮城くん!おつかれ!」

バスケ部の練習を見に来ている女子はどんどん増えているが、名字サンが見に来るのは初めてな気がするな。一緒に来ているであろう隣のギャルたちは休憩中の誰かを目で追って、きゃあきゃあと騒いでいる。名字サンはそんな風でもないから、三井サンの応援にでも来たんだろうか?
三井サン、今日全然シュート入んねえなと思っていたら、観客の中に名字サンを見つけた。ははーん、なるほど。意識しちゃってんのね。あんな人だけど可愛いとこもあるもんだわ。

「三井サン見に来たんすか?」
「ちがうよ、ルカワくん見に来たの」

確かにかっこいいわあ、なんて言いながら、首にかけたタオルで汗を拭く流川を見つめている。言われてみれば隣のギャルたちも流川と目が合ったとかなんとか、きゃあきゃあ沸いている。
意外な名前が出てきて少し驚いた。
こりゃあ、三井サンが知ったら面白いもん見れそうだな。

「お前何してんだ?」

噂をすればなんとやら。珍しいな、練習見に来るなんて。何にも知らない三井サンがドリンクをガブガブ飲みながらやってきた。

「ルカワくん見に来たの」
「はあっっ!!?」
「なに、うるさっ」

三井サン、絶対自分の応援に来てると思ってたんだろうな。素っ頓狂な声出しててうける。どんまい。

「なんで流川なんだよ!?」
「友達がみんなファンで、わたしも誘われたからさ」

ほら、と隣で目をハートにしている女子たちを指差す。
ルカワって誰、って聞いたら、ルカワくん見たことないなんて信じられない、ってなって、それで。
でもルカワくん、確かにかっこいいね。ファンの気持ちもわかるよ。バスケめっちゃ上手いし、背高くてイケメンで、無口なところもなんかいいよね。スポーツやってる男子って、いいなあ。

名字サン、それぐらいにしてやってよ。見てよこの三井サンの顔。言い返せなくて、ぐぬぬ、みたいな顔してるから。・・・うける。

「宮城くんも、バスケ上手なんだね!パスもドリブルも速くて、びっくりした!すんごくかっこよかった!」
「・・・あざす」

名字サンって、こういうどストレートなとこあるよな。真正面から褒められるって、あんまりないから少し照れ臭い。ひとつ年上だけど、こういうところが可愛らしい人だな、と思う。
三井サン限定で素直じゃなくなるところも、側から見てればそれもまた可愛いんだけど。
当の本人からしたら、面白くはないんだろうな。
オレが褒められてるのを聞いて不服そうな表情をした三井サンが、ずい、と前に身を乗り出す。
・・・見苦しいぞやきもちは。

「おい、オレは?」
「は?」
「オレだって背高くてイケメンだろ」
親指で自分を指す三井サンは相変わらず自信満々だ。
「オレだってスポーツマンだしよ」
「ルカワくんに何張り合ってんの。三井のシュート全然決まってなかった」
「てめえ!」
「ほんとのことじゃん!」

まったく、三井サンの気も知らないで。
名字サンが見に来てることに気づいてからそわそわして、カッコつけたいのに上手くいかなくて、赤木のダンナに「三井、集中しろ!」とか言われちゃって。
こんなはずじゃないのに、って三井サンも思ってるはずだよ。
そんなこと、オレが口を挟めるわけもなく、ただ黙って二人の恒例の口喧嘩を見守る。

「あ、次の試合観に行くことになったよ」
「そうかよ」
「わたしもルカワくんの親衛隊入ろうかな」
「はっ、お前があの格好してたら見苦しいだけだろ」
「なんだと」

おいおい、この二人はどうしてこう上手くいかないんだ。




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