「きりーつ!気をつけ!礼っ!」

うるさっっっ!!

「あ?なんだよ」
「声でかすぎでしょ」
「号令なんだから当たり前だろ」

なんで得意げなんだよ。部活じゃないんだからさ。だって三井の前の席の山田くん、さっきまで船漕いでたのに三井のクソデカボイスのせいで思いっきりびくってなってたもん。
こいつ絶対ラーメン屋でめっちゃでかい声で「すみませーん!」って店員さん呼べるタイプだわ。帰る時もごちそうさまをバカでかい声で言うんだろう。・・・これはただの良いヤツか。

「三井、黒板消してきて」
「お前が消せよ」

オレ、号令したぜ?
だからなんで得意げなんだ。号令したぐらいで。ていうかアンタが寝てた午前中はわたしが号令してたんですけど。

「じゃあ日誌書いてよ」
「えー」
「・・・・・・」

このやろう。三井が朝練だって言うから、仕方なくわたしが朝も早く来て花に水あげたり授業の準備したり窓開けて空気の入れ替えしたり、何のためかわからない日直の仕事をしたっていうのに!くそう、こいつ何もしない気か!

「あー、わかったよ、じゃんけんな」
「・・・・・・・」

なんで三井がやれやれ感出してきてんの。仕方ないからオレが折れてやるか、みたいな。絶対的に三井の方が仕事量少ないんですけど。

「出さなきゃ負けよっ、じゃんけんぽん!」
「・・・・・・・」
「じゃ、黒板と日誌よろしくな」

両方かよ!

三井といると感情的になってしまって困る。ていうかアイツが人を煽るようなことばっかりしてくるせいだ。ヤンキーだった頃は号令なんて一切やらなかったくせに。バスケ部戻った途端、あんなでかい声で号令するようになって。あの頃かっこつけてこういう奉仕活動やらなかった分、今からでも頑張ってやればいいのに。
何がムカつくって、日直のペアがわたしじゃなかったら、もうちょっと協力的だったんじゃないかってことだ。
・・・わたし絶対三井になめられている。

「おりゃ!」

何がいやって、ジャンプしても上の方届かないんだって!
だから黒板消しを三井に頼んだのに!何のためにそんなに背を伸ばしたんだ!

「おりゃー!」
「ぶはは、間抜けだな」
「なんだと」

誰のせいで、そう言いかけたところで、覆い被さった影がわたしの右手から黒板消しを奪う。三井は背伸びもせずに、上の方だけ残ってしまった文字をすいすい消していく。

「あ?なんだよ」
「・・・別に」

ち、近い。

「ははん、まさかオレにときめいたか?」

まあ今のはときめいても仕方ないけどな。
そう言っていたずらに歯を見せて笑う三井は、確かに爽やかで、そこらの女子がときめいてもおかしくはない。・・・調子に乗るから絶対言わないけど。
隣に並んだ三井は首を真上に向けなきゃいけないくらいに背が高くなっていて、あれ、一年の時こんなに背が高かったっけ。なんて思った。

「最初からやって欲しかったなって思ってた」
「お前まじでそういうとこ」

素直にときめいたって言えよなー、と馴れ馴れしい三井はなにかでコツンと小さくわたしの頭を小突いた。

「あ」
「ねえ!煙すごいんだけど!?今なにでわたしの頭叩いた!?」
「い、いや」

やべ、名字の頭、真っ白になっちまった。




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