27 ※モブいます 一年の頃の三井は、そりゃあモテた。 モテにモテてモテていた。呼び出しなんてしょっちゅうで、学年の可愛い女の子たちがこぞって告白するもんだから、三井はいつもどこぞに呼び出されていた。たまたまその姿を見たことがあるけれど、その時はバスケを理由に断っていた気がする。ほんとにその時は、ふうん、モテるんだな、ぐらいにしか思わなかった。 今、わたしの引き出しには、三井宛のラブレターがしまってある。 「おい、さっきから何ちらちら見てんだよ」 「な、なんでもない」 「嘘だな。何企んでやがる」 なんか隠してんだろ、と三井はわたしの顔を覗き込む。だから、ち、近いんだってば。 ああもう、早く言わなくちゃ。ちょっと来て、と三井の腕を掴み、挟んで隠したままのラブレターを教科書ごと手にとって、人目につかないところまで歩いて行く。三井は文句も言わず、やけに静かに後ろをついてくる。この静かさが、いやにこわい。 非常階段に着いて、わたしはようやく三井の腕を離し、真正面から向き合った。 「ごめん嘘、これ」 「は!?」 「隣のクラスの佐々木さんから。ほら、わかる?あのすらっとして可愛い子」 「・・・紛らわしい渡し方すんじゃねえ」 紛らわしい?・・・なんの話だろう。三井は大きなため息をつき、心なしか肩を落としてその手紙を受け取った。・・・なにその態度。あんなに可愛い子からのラブレター、嬉しくないのかな。うーん、もっと早く渡せよ、とか?・・・あれ、ていうかこの人、好きな人いるんだっけ。その人からじゃなかったのだろうか。ああ、そうかもしれない。 「なんでお前から?」 「三井と仲良いからって頼まれた」 「お前、これ受け取った時どう思った?」 「どうって、何も・・・」 はあ、と三井はまた大袈裟なくらいに大きなため息をつく。さっきから、なんだろうこの態度。やっぱり三井も、この前からどこか変。いつもの三井だったら、自慢してきたりそわそわしたり、態度に出るはずなのに。変なくらい静かで、冷静だ。 三井は何にも言わない。伏目がちに手紙を見つめ、なんとも言えない顔をする。これは、迷惑、とかそういう顔なんだろうか。この静寂に居た堪れなくなって、わたしはは適当に三井を揶揄う。 「モテますねえ」 「・・・好きじゃねえやつからモテたってしょうがねえだろ」 さすが、腐ってもイケメンだ。そんなこと、人生で言ったことない。別にモテたいわけじゃないけど。三井の言う通り、好きじゃない人から好かれてもしょうがないという気持ちは少しわかる。わたしだって、好きな人から好かれたい。 三井は手紙を読むことなく、乱暴にポケットに押し込んだ。 「え、読まないの?」 「あー、あとでな」 「なんで、きっと一生懸命書いたんだよ、それ」 もしかしたら、今日の放課後どこかで待ってる、とかかもしれないし、なんなら昼休みの呼び出しかもしれない。佐々木さん、わたしが相手なのに、ラブレターを渡す手が震えていた。好きな人に向けて、真剣に書いたものだ。例え断るのだとしても、あの子の気持ちを大切に扱って欲しい。 「本当に好きなら、オレは直接伝えるべきだと思う」 「それは、」 「オレは、好きなやつしか大切にできないし、」 「でも、」 食い下がるわたしを、三井は静かな目で見つめる。 「そもそもこの件で、お前に何も言われたくない」 三井にしては珍しく、ぴしゃりと言い放った。わたしはもう何も言い返すことができず、ただ自分のつま先を見つめていた。 冷やかしだったわけじゃない。ただ、あの勇気を出して頑張る姿を見て、三井に誠実に返事をして欲しいと思ったから。もしもあの子を好きじゃなかったとしても、三井はきっと、誠実に応えると信じていたから。 だけどどうして、わたしはそんな姿を三井に望んでしまうんだろう。 「そうだよね、ごめん」 三井の言う通り、わたしがとやかく言う立場にない。と言い加えれば、三井は何も言わなった。代わりに、もう戻ろうと、静かな声が廊下に冷たく響いて、涙が出そうになった。 |