「うああぁ!!みついいい!!」
「ああ?・・・おいっ!お前何してんだよ!!」

なんでちょっと目離した隙に卵握り潰してんだよ。ボウルの中に卵を割ってくれと言って目を離したらすぐこれだ。どんな握力してんだ、アホなのかこいつは。アホだ。
半泣きになった名字が、卵でべちゃべちゃになった手をオレの方へ差し出している。いや見たらわかる。早く手洗えよ。

「なんでだろ、こんなはずじゃ・・・」
「うるせえ、お前は手洗って玉ねぎでも切ってろ」
「すまん・・・」

持参した三角巾が小さめのサイズだったらしく、一人だけオバケについてる三角みたいになっちゃってる間抜けな姿の名字がトボトボとまな板の前に移動していく。

・・・いや待てよ、こいつに包丁握らせたら余計危ねえんじゃねえか?卵でこれだぞ。刃物だなんて。

「待て、名字」
「なに?」
「お前はこっちだ。悪い、山田、お前玉ねぎ切ってくれ」
「ごめん山田くん・・・」

お、おう、と山田は気まずそうに返事をして、そそくさとまな板の前に移動してくれた。なんか悪いな、お前も料理しなさそうなのに。・・・てかオレだって別に得意なわけじゃねえ、こいつが壊滅的なだけだ。握力バグってんのかよ。かと言って刃物も危ねえから持たせらんねえし。他の女子はネイルがーとか言いやがる。最早オレと山田だけが作っているんだから、オレと山田にだけ食う権利があるはずだろ。名字に関しては協力的なのが仇となって逆に目が離せねえ。作業が進まねえからどっか別の班に移動してほしい。

「三井、何したらいい?」
「とりあえずそこのレタス千切ってろ、ハンバーグの付け合わせのサラダ作れよ」
「ラジャ」

これならわたしにもできるわい、と本日初めて名字は嬉しそうな顔をした。なんだこいつ、3歳児かよ。普通の座学の授業ん時はそれっぽく見えるのに、なんでこういう実技系になるとアホ全開になっちまうんだろうか。これが勉強のできるタイプのバカってやつか。

「ユイちゃんの分だけサラダ多めにしとくね!」
「マジ?ありがと名前、今アタシダイエット中なんだよね」
「おい、お前五人分均等に分けろよ」
「ケチ」
「三井マジケチなんですけどぉ」
「お前らぶっ飛ばすぞ」

いや明らかに一皿分野菜が少ねえ。もしかしなくともオレのサラダじゃねえだろうな。

「サラダ出来たよ!次何したらいい?」

やっぱり一皿だけ明らかに少ねえな。

「ポテトサラダの芋を潰せ。ほらこれ使え」
「おっけー!これも出来る!」

名字を芋に引き付けている間に、オレはハンバーグを山田と焼き上げた。残りの女子は芋を潰す名字を応援している。
・・・もうオレこの班嫌なんだけど。

「三井、出来たよー」
「あとオレやるから、座っとけ」

なんとかここまできた。ポテトサラダを完成させて配膳しようとしたところで、名字がじっとこちらを見ていることに気づく。

「三井、わたしがポテトサラダ盛り付けていい?」
「ああ」
いいけど。なんだよ。
「はい、これ三井の分!」
「やっぱサラダ少ねえやつかよ!」
「ちゃんと五等分したけど」
「お前ふざけてんのか」

オレと山田でほぼ作り上げた本日の献立、ハンバーグ、ポテトサラダ、ミネストローネが完成した。
ありがとな、と山田に声をかければ、こちらこそありがとうと返ってくる。山田がいなきゃ今日の実習は成功できなかっただろう。こういう風にチームワークとか協働というものを学ぶ機会なんじゃねえのか。お前ら女子。

「おいしいなあ」
「そうかよ」
「三井はいいお母さんになるね」
「あ?」
またおかんかよ。

ごはんは美味しいし、指示出しもテキパキしてるし、器用だし、要領いいし。口いっぱいにハンバーグを頬張りながら、名字は自分のことでもないのになんだか得意げに言う。

「次の実習も三井と同じ班がいいな」
「オレはもう二度とごめんだわ」



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