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「ノート見せて」
「ええ、また?」
「しょうがねえだろ、ずっと寝ててノートとってねえんだよ」
「何がしょうがないの」

ほら、早く。そう言って、借りる側の態度を全くしていない三井が手のひらを差し出す。まあ、うちの学校、赤点四つ以上取ったらインターハイいけないっていうし。隣で首をかくかくさせているのをしょっちゅう見るところによると、本当にノートを取っていないのだろう。結局わたしも、仕方ないかと許してしまうぐらいには三井を甘やかしてしまっている。
まあ、三井だけ広島行けなかったらちょっと笑えるけど。

「自販機のジュース奢りだよ」
「恩に着る」

ははあ、とわざとらしくわたしに拝む三井の頭をノートでポンと叩いて渡せば、バカになったらどうする、と顔をあげた三井に睨まれた。この人、バスケに夢中でやらないだけで、勉強できないタイプじゃないと思うんだよなあ。

「黒板よりもお前のノート見た方がわかりやすいんだよな」
「あっそ」
「お前って字綺麗だよな」
「煽ててもジュースは奢ってもらうけど」
「バレたか」

へへ、と子供みたいな顔で三井は笑う。まあ、正直悪い気はしない。わたしのノートを見て、自分のノートに角ばった文字で書き写していく。三井も字、綺麗な方だよなあ。そんなことを思いながら、その作業を見つめている。・・・あれ、こいついつからノートとっていないんだ?

「今日ノート全部借りてっていい?徳男たち誘って勉強でもしよっかな」
「え?今日のりおくんたちとわたしのバイト先で勉強する予定なんだけど」
「はあ!?」

なんだ、急に大っきい声出して。
のりおくんたちも、追試になったらバイトに支障がでるらしい。困った顔をする彼らに、わたしで良ければ教えようか、と聞けば、ぱあっと明るい顔をしてくれた。そうして今日がその約束の日。決勝リーグが終わってからゆっくり会えていなかったから、この日をとても楽しみにしていたのだ。

「お前ら、いつからそんなに仲良くなったんだよ」
「んー、たまに一緒にダニーズでお茶したり、ゲーセンでコインゲームしたりしてるよ」
「おい、徳男たちはオレのダチなんだぞ!?」
「やきもちやかないでよ!」

半泣きでわたしに睨みかかる三井はまるで、浮気された、みたいな顔をしている。なにこれ、わたしが浮気相手みたいじゃん。勘弁してくれ。のりおくんたちは誰のものでもないのに。元ヤンのくせに器の小さいやつめ。

「おい、今日は徳男をオレに譲れ」

試験前で部活ないの今だけなんだよ、と三井は懇願するようにわたしを見つめる。そんなこと言われても。はいわかった、ってわたしが勝手に言っていいのかわからないし。・・・てか、なんでのりおくんの取り合いしてるんだ?普通に三井も来たら良くない?

「のりおくんに聞きなよ。わたしはどっちだっていいからさ」
「あんだと?徳男と遊べて嬉しかねえのかよ!?」
「うわ、めんどくさ」

あんたの応援行くためにみんながバイト頑張ってんの知ってんの?三井が赤点たくさん取ったらインターハイ行けないし、そしたらみんなも応援行けないんだからね!
そう言えば、三井は萎れたように頷く。

「でも、オレだってたまには前みたいに徳男たちと遊びてえよ」
「それ、直接言ってやんなよ。きっと喜ぶよ」
「言うかよ、かっこわりい」

ムカつくからあとで全部言ってやろ。






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