19 「というわけで、インターハイ出場おめでとう!」 これ、店長からのお祝い! そう言って満面の笑みを携えながら、バイト上がりの名字がよたよたと巨大なパフェを運んできた。・・・なるほど。確かにウルトラでスペシャルというだけある。果たしてこの店で、誰がこんなパフェを頼むんだろう。 「なんでパフェなんだ?」 赤木がテーブルの上のものを端に寄せ、パフェを置くスペースを作りながら、不思議そうに名字に視線を向ける。 「わかんない」 「なんだそれ」 呆れ顔の赤木を華麗にスルーして、パフェ用のスプーンとフォークを人数分手際よく配膳した名字は、いただきまーすと手を合わせ、誰より先にソフトクリームをすくった。 おい、オレたちのお祝いじゃなかったのか。 「オメーが最初に食うのかよ」 オレたちみんなが思っていたことを、三井が代弁した。本人は素知らぬ顔で、パフェに突き刺さっているケーキのようなものをつまんでいる。ああ、オレそれちょっと食べてみたかったのに。まあもう一個あるからいいけど。 「オレコーヒーゼリーんとこ食いたい」 「ここから多分いけるよ」 「お、まじ?・・・うめーわ」 なんでパフェ?そんなこともうどうでも良くなったのか、考えることを放棄した三井が、グラス越しに食べたい味を指さす。名字と三井は肩をくっつけながら、真剣にパフェの構造について考察をしはじめている。 「おい、オレたちのお祝いとか言ってなかったか?」 「そうだよ」 「お前しか食ってないじゃないか」 「だってこれ、一回食べてみたかったんだもん」 「結局そういう理由か」 ばれたか、と口角を上げ名字はいたずらっ子のように赤木を見上げる。やれやれ、という顔をする赤木も、なんだか楽しそうに見えた。中学から、なんやかんやでこいつらは仲が良かったことを思い出し、微笑ましい気持ちになる。 「あ、バナナ」 「だめだよ、バナナは赤木のでしょ」 「そうだったわ」 「おい、お前らなんか言ったか」 「「なんにも」」 二人して慌てて明後日の方を向く。向かいから見ていればその表情がそっくりで、思わず吹き出してしまった。名字はそんなオレに気づいて、恥ずかしそうにしている。 「あのね、みんな」 スプーンを置いた名字は、改まったように座り直し、あからさまにそわそわし始めた。どうしたんだろう。お腹いっぱいになったんだろうか。 こほん、と小さく名字が咳払いをした。 「インターハイ出場、ほんとにおめでとう」 口のはじにクリームをつけた名字が、照れくさそうにはにかむ。その顔は、嬉しそうにも、なんだか少し、泣きそうにも見える。 「ありがとう。名字」 「・・・ああ」 「赤木、中学の頃から全国って言ってたよね」 わたしも嬉しい、そう言う名字は、やっぱり少し泣きそうに見えた。そんなの、こちらこそだ。全国という夢を笑わずにずっと応援してくれた名字には、オレも赤木もいつも救われたんだから。 「おい、オレも言ってたぞ」 「・・・え?ああ、そうだっけ」 無意識にやきもちを妬いてオレたちに張り合おうとする三井は、なんだか子供みたいで可愛らしい。こんなこと言ったら目を吊り上げて怒られそうだけど。 「リアクション薄くねえか?」 「・・・なんか苦手だったんだよね。一年の頃の三井」 「は」 だからあんまり覚えてないのかなあ。 呑気な顔でパフェを食べ進めていく名字とは裏腹に、三井の眉間にはみるみる皺が寄っていく。ああほんと、わかりやすくて面白い。 「残念だったな三井。一年の頃、名字のこと可愛いって言ってたのに」 「ぶっっ!!」 「ははは」 赤木がとんでもない爆弾発言をしたせいで、三井が飲んでいたアイスコーヒーを一緒にパフェの層を見分していた名字に至近距離から吹きかけた。 もう隠すことなく盛大に笑えば、顔を赤くした三井が案の定「笑うな」と言ってオレを睨んだ。そんな顔で怒られたって、全然怖くないんだよな。 「きたなっ!さいあく!顔にかかった!」 名字は顔にかかったアイスコーヒーをおしぼりで一生懸命拭きながら、「赤木、今なんて言ったの?」と不機嫌を全面に声に出して聞く。 「だから、三井が」 「てめ、やめろ赤木!」 「ははは」 「おい木暮、笑ってないで少しは助けろ!」 |