「おまっ、色気のカケラもねーな」

ありあとございやしたー、やる気のない店員の声を背にコンビニを出ようとしたところで、自動ドアが開いた。驚いた顔をした三井が立っていた。

「うわ三井」
「おま、」

なんだそれ。何持ってんだそれ。そう目が言っている。
急に目の前に現れた三井に驚いて、色気うんぬんについて言い返すのを忘れていた。悔しい。

「まあいいや、ちょっと店の前で待っとけ」
「は?なんで」

帰り道でこれ食べるつもりだったんだけど。

「いーから!」

待っとけ!そう半分叫びながら、三井は飲み物のコーナーに走って行った。
・・・なんで三井のことなんか待たなきゃいけないんだろう。・・・帰ろっかな。いやでも、明日の朝、三井うるさいだろうな。なんで帰ったんだ!待っとけって言っただろ!とか。うわ、言いそう。
・・・それもめんどくさいな。

考えがまとまらないまま店の前でケチャップとマスタードを絞り出していたら、三井が会計を終え慌てて店を出てきた。コロッケパンとポカリを抱えている。

「部活帰りの男子みたいな組み合わせだね」
「部活帰りの男子だからな」
「ふうん」

この前までヤンキーだったくせに、という飲み込んだ嫌味が顔に出ていたのか、それに気づいた三井がバツの悪そうな顔をする。ちょっと面白い。

「そんなことよりお前、アメリカンドッグ袋なしで持ってる女初めて見たぞ」
「すぐ食べるしエコでしょ」
「信じられねえ」

いやすぐ食べるのに袋いらなくない?店員さんだって手間じゃない?だってすぐ食べるんだよ?

「おい!聞いてる?」
「んあ?」

ポカリを勢いよく流し込んだ三井は、コロッケパンの袋を開けてむしゃむしゃと食べ始めた。なんか、本当にスポーツマンみたいだ。この前まであんなロン毛だったのに。髪もずいぶん短くなったし。あと変わったのは、あ、顎に傷。ケンカで無くなったらしい前歯は、今はすっかり、何事もなかったかのように綺麗に並んでいる。
三井があんなヤンキーしてたなんて、夢だったみたい。

「あんだよ」
「え?」

じっと見つめてしまっていたらしい。わたしの視線に気づいた三井が、口いっぱいにパンを頬張りながらアホみたいな顔でわたしを見下ろしている。

「・・・いや、別に」

怪訝な顔で小さく首を傾げた三井は、それからしばらくして、にたにたとした嫌な笑顔になっていく。うわ、まためんどくさいこと言いそうだな。

「はっはーん、さてはこのオレに見惚れてただろ!」
「うわ言うと思った!ぶあっっっかじゃないの」
「なんだとてめえ!」
「いって!」

さっさとパンを食べ終えた三井はぐしゃぐしゃと拳の中で袋を丸め、その手でわたしの頭を殴ってきやがった。
くそう、食べるの早いんだよ!やり返してやりたいのに!

すっかりスポーツマンらしくなった三井はポカリが良く似合う。同じクラスだった一年の頃より人相はめちゃくちゃ悪くなったけど、なんでだろう、一年の頃より話しやすくなった気がする。一年の頃は、あのキラキラした三井がちょっと苦手だったから。

「まあ、今の三井が一番好きかな」
「・・・」
「いやなんか言えよ」
「っるせ!」

なんだそれ。三井はよくわからない。自分からふっかけてきたくせに、急に黙るな。
ねえ、そんなことよりアメリカンドッグって一番下のカリカリのところが一番美味しいよね。ここを食べたくて、アメリカンドッグを食べていると言っても過言ではない。・・・ねえ、三井聞いてる?

「食いおわったか」
「うん」
「じゃあ送ってく」
「いやいいよ別に」
「はあ?危ねえだろ、何時だと思ってんだ!」

予備校帰りはいつもこの時間だし。三井とそんなに家近くないはずだし。三井だって部活帰りで疲れてるはずだし。
ていうかさっき、

「色気のカケラもないって言ったくせに!」
「ああ?」
「だからわたしは色気ないし大丈夫だよって話!」
「それとこれとは別だろ!」

変なの。いつもわたしに女らしくねえとかアホみたいとか文句ばっかり言ってくるくせに。まるで心配してるみたい。行くぞ、とポカリ片手にさっさと歩き始めた三井の背中を仕方ないから追いかける。

「棒くわえたまま歩くなよ、転んだら危ねえぞ」
「・・・おかんか」
「なんだと!?」




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