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「三井のそれ、何味?」
「レモン」
「美味しそう、一個ちょうだい」
「ああ?自分のあんだろ。・・・ほら、口開けろ」
「・・・おいしー!」

いい加減にしろこいつら。
なんでウブのくせして、からあげくんのあーんとかは普通にできんだよ。距離感バグりすぎだろ。わけわかんねえ。でも・・・なんだろ。親鳥が雛鳥にする給餌に見えるぐらいには、色気がねえ。

「・・・・・」
「あ、三井。宮城くんも欲しいみたい」
「あ?お前もかよ。仕方ねえな、ほら」
「いやちげーよ!!!」
「「え」」

なにこの人たち。
二人揃ってきょとんとした顔しやがって。
つーか三井サン、オレと名字サンの扱い同じなわけ?

「反抗期かな」
「いや、尊敬するオレからあーんされるなんて、さすがに恐れ多いんじゃないか」
「は?三井尊敬されてないじゃん」
「なんだとてめえ」

ほら、食え、と三井サンは当たり前のようにオレの口元にからあげくんを押し当ててくる。どうせこの人、オレが変な遠慮してるとか思ってんだろうな。からあげくん5個しか入ってないのに、いいのかな。みたいな。んな遠慮アンタにあるわけねーだろ。なんかムカつくから試しにちょっと睨んでみたが、なんだ?食わないのか?みたいな顔して不思議そうに首を傾げているだけだ。隣の名字サンも、心配そうな目でオレを見つめている。・・・なんか、食わないオレが変みたいじゃん。餌のように与えられたからあげくんをえいと食べれば、三井サンは満足気に笑った。

「美味いか?宮城」
「まあ」
「だよなあ!・・・おい、ちょっと待て!オレのからあげくんあと一個しかねえ!!」
「まあ五個入りだからね」
「・・・しゃあねえ、もう一個買ってくるか」





帰り道。たまたま三井サンと二人になった。花道と流川の今日の喧嘩の理由を話して、下らねえと二人でげらげら笑っていたら、三井サンはいつもと違う道から帰ろうとする。不思議に思っていたら、名字サンとコンビニでばったり遭遇した。ははーん、なるほど。三井サンに「このためっすか?」と出来るだけ嫌味ったらしく聞けば、「前に不良たちに絡まれてたことあったから、時間合えば送ってやってんだ」と、何ともバツが悪そうに、だけど意外にもあっさりと白状した。
素直に、心配だから送って行くと言ってやれば良いのに。こんな偶然を装ってまでしなくとも。普段彼女にずけずけ言うくせに、こういうとこは気遣う。むしろこういう部分を素直に伝えたら、少しは進展するんじゃないですかねえ。・・・と言ってやりたい。
名字サンは案の定、そんな気遣いなんてさっぱり気付いてないようだ。「あれ、また会った!偶然だね、部活おつかれ!」と呑気な顔で笑って、オレらの元へ駆け寄ってきた。
ほらー、三井サン。もっと積極的にアピールしていかないと、この人には一生伝わんねえって。





駐車場から、ショーケースと睨めっこする三井サンが見える。何をそんなに悩むことがあるんだ。普通に考えてレッド一択だろ。

「ねえ、」
「なに?」

あー、とかんー、とか。名字サンは隣で突然百面相をし始めた。うわ、今の顔ウケる。
しばらくその様子を見守っていると、ようやく言葉を選び終わったのか、おんなじようにショーケースの前で百面相する三井サンを少しの間見つめて、そしてオレを見上げた。

「その、宮城くんは、三井とバスケするの嫌じゃないの?」
「・・・はあ」

ああ、そういう。
まあ、そうだよな。あんなことがあったし。こうやって帰り道、一緒にからあげくんを食べる仲になろうとは、誰が思ったことだろう。オレだって思わなかったし、きっと名字サンもそうだったから聞いたのだろう。

「まあ、今は」
「そうなんだ。・・・器でっかいなあ。わたしなら無理かも」

まあ、オレも自分でびっくりしてる。あんなことされて、普通に一緒にバスケしていることに。遠くを見つめる名字サンの横顔はいつもと違って落ち着いていて、なんだか少し彼女を大人びて見せた。
オレも、少し気になっていたことをこの際だから聞いてみることにした。

「名字サンって、三井サンがバスケ部にしたこと知ってるんすか?」
「・・・噂でしか聞いてないけど。三井もなんも言わないし。・・・でも、たぶん、大体知ってるよ」
「ふうん。・・・三井サンのこと、どう思いました?」

純粋な好奇心から聞いてみたかった。名字サンは、そもそもあのことを知りもしないんじゃないかとすら思っていた。それぐらいに、いつも三井サンの前では何も考えてないような態度をしていたから。だからもし、知っているのだとしたら、この人がどんなことを考えているのか知りたいと思った。
名字サンは目を伏せ、静かに言葉を探している。

「宮城くんとバスケ部にしたことは、許されることじゃない」

名字サンが、すう、と小さく息を吸った。

「でも、みんなの前で泣いて、髪切って、頭下げて。プライド全部捨ててバスケ部に戻ったのは、三井の強さだと思う」

やっぱり、名字サンは三井サンのことをよくわかっている。あの人がどんな気持ちでバスケ部に戻ったかも、その決意も。わかっているからこそ、まるで何も知らないかのように振る舞ってくれているんだ。こんな風に、側でこの人に見守られていることを、三井サンはちゃんと気づいているんだろうか。

レジに並ぶ三井サンを見つめて、名字サンはいつものへらりとした顔で笑う。

「わたしなら無理だもん。プライドだってあるし」
「名字サンってプライドあるんだ」
「なんだと!」

名字サンは部活と汗で崩れたオレの髪をまるきり気にせずわしゃわしゃと撫で回す。さっきの湿っぽい空気が嘘のよう、だんだん笑えてきて、二人で腹を抱えて大笑いした。
そしたらポカンとした顔の三井さんがコンビニから出てきて、また笑った。

「お前ら仲良いな。ほら、半分こして食え」
「なにこれ」
「パピコ?」
「おう。オレはスイカバーにした」

散々ショーケースの前で悩んだくせに、結局アイスにしたのかよ。
しかもオレと名字サンはパピコ半分こときた。
名字サンを見れば、名字サンもまた、オレを見つめていた。二人しておんなじこと考えていたようで、目が合った瞬間また吹き出す。

「三井って親戚のおじさんみたい」
「わかる」
「は?おじさん?」
「「ぶははははは」」
「あ?なに笑ってんだよ!アイス返せ!」




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