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休み時間。徳男と廊下で話し込んでいたら、女子トイレから名字が大あくびをしながら出てきた。口ぐらい押さえろ、すんげえアホ面だったぞ。ぽてぽてと眠そうに歩いていたくせに、誰かに気づいた名字は半開きだった目を突然大きく開け、ぶんぶん手を振った。
あ?なんだ、誰か友達でもいたのか。

「のりおくん!」
「名前ちゃん!」

徳男かよ!

え、名前呼び?なにこいつら。オレが知らない間にめっちゃ仲良くなってる。小走りで駆け寄ってきた名字は、昨日はありがとねとはにかむように笑って徳男を見上げ、徳男もこちらこそありがとね、とか言って目尻を下げてにこにこしている。おいお前ら。一回もオレのことそんな顔で見たことねえだろ。

「昨日の海南戦で仲良くなったの、ね」
「うん」

うん、ってなんだ、徳男。
名字は、ほら、と説明をする。
一緒に応援行ったわたしの友達、みんなルカワ親衛隊の子でしょ。わたしはまだあの格好できるまでルカワくんのファンじゃないし、どうしようかなあと思って席探してたら、のりおくんたちが声かけてくれたの。だからね、一緒に三井の応援してたんだよ。
そう言って、ね、とまた徳男を見上げる。
・・・知ってる。
あの野太い声の中、一人だけ不自然な高い声がしてめちゃくちゃ浮いてたからな。宮城が突然吹き出したもんだから何かと思って指差した方見たら、お前が徳男と同じ剣幕で応援してんだもん。宮城は涙流しながら笑ってやがったから殴っておいたけど。まあでもあんなん普通に笑う。

「ち、違うんだよ三っちゃん!」
「あ?何がだ?」
「オレたちは一緒に三っちゃんの応援してただけで」
「・・・は?何の話だ?」
「いや、なんか、別に三っちゃんが嫌じゃなかったらいいんだ」
「?」

徳男は言葉を選び、もごもごしている。何のことだかさっぱりわからん。一体なにに対する弁明なんだ?オレに悪いことでもしたのか徳男。・・・さあ。全く思いつかねえな。昨日もみんなで応援来てくれたし。むしろ感謝してるというのに。

「まあお前ら、応援きてくれてありがとよ」
「うん!今週末ものりおくんたちと一緒に応援行くからね!気合い入れるね!」

・・・ありがてえけどよ、お前のガチの応援見てると笑っちまって緊張感薄れるんだわ。赤木なんて笑い堪えて「集中!」って言う声震えてたからな。

「あ、・・・そいやお前、風邪治ったのかよ」
「ああ、その節はご心配おかけしました。もうばっちり」

うやうやしくお辞儀をした名字は、それからすぐピースをしてにいっと笑う。その顔に、あの日ぐずぐずと泣いていた面影はない。名字は結局あれから数日学校を休んだので、こいつと話すのは久しぶりだ。海南戦に来れるのかもわからなかったから、応援席にこいつの姿を見つけた時は、正直ほっとしたもんだ。三井にうつらなくてほんとに良かったと、名字は胸を撫で下ろし、心底安心したという風に言う。

「三井のシュートフォームって、綺麗だよね」
「お前にそんなんわかんのかよ」
「なんだと!」

名字はシュートフォームをその場でやって見せ、あれ、三井ってもっとこうだったよなあ、とぶつぶつ言いながらぴょんぴょん隣で跳ねている。まず腕の角度が違え。

「うんうん。バスケやってる三っちゃんはやっぱりかっこいいよね」
「うん」
「三っっっちゃん!!!!」

なんでお前が喜んでんだ徳男!
自分で振っといて、なんでそんな驚いたようにこっち見てくんだよ。見ろよ、名字は微塵も意識なんてしてねえから。
・・・かっこいいっつっても、昨日のオレはだいぶヘロヘロだったけどな。昨日の試合なら、それこそ流川のがよっぽどカッコよかっただろ。桜木とか。赤木とか。

「何その顔、褒めてんのに」
「・・・るせ」
「あの可愛いマネージャー、インターハイに連れてくんでしょ?」
「は?」

え、なんの話?うわ、何だそのニヤニヤ顔。いやな予感しかしない。肘でわき腹を突いてくる名字はマジでうっとおしい。このパターンは今から絶対うざいこと言うやつだろ。

「あの可愛いマネージャー、タイプらしいじゃん」

はあ?そんなことオレ言ったか?っつーかどっから。

「あれ?何このリアクション。体育館でケンカの時言ってたって聞いたけど。ね、のりおくん」
「えっ!?あ、」

のーーーりーーーおーーー!!



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