「リョーチン」
「ん?」
「あの人、ミッチーのなんなんだ?」

すすす、と音を立てず静かに隣に立った花道が、オレの耳に顔を寄せ囁く。
顎でくい、とさしたその先を見れば、休憩の笛が鳴ったその足でドリンクとタオルを手に取った三井サンが、部活を見に来ていた名字サンに声を掛けに行くところだった。

「ああ・・・、オカンと息子?」
「なんだそれ。まああれでミッチーは手がかかるからな」
「・・・いや、逆なんだ」
「ぬ、逆?」

理解できん、という顔で花道がこてんと首を傾げた。そうだろうな。オレも理解できない。あれで意外と面倒見が良くて気が利く三井サンと、マイペースでわんぱくな名字サン。二人は案外相性が良くて、関係性はなんだかよくわからない方向にいってしまっている。

っつーかよ。なんでオレがこんなこと考えなきゃいけないんだよ。二人がくっつこうがくっつくまいが、オレに何も関係ないっての。なのに二人ともとんでもなく鈍いんだもん。こっちがやきもきするくらいに。このままお互い自覚なく卒業なんてしちまったら、オレの寝覚が悪い。最悪、三井サンには玉砕くらいはしてもらわないと。





そんな会話があったこともつゆ知らず、部活帰りの三井サンは相変わらず呑気な顔でガリガリくんを食べている。はあ・・・、しっかりしろよな。なんで自分のことは鈍いんだよ。結構鋭い時もあるくせによ。
ほら、あそこ歩いてるカップル。アンタがモタモタしてる間にああやって名字サンがぽっと出の男に・・・、ってあれ!?

「え!?マジ!?名字サンじゃん!!」
しかも男と一緒ときた。
「はあ?んなわけ」
だからもう!大口開けてなにそのあほ面。アイス食べてる場合じゃないでしょ!
「三井サン、見て」
「・・・は?」

オレが必死に指差す方向を気だるそうに渋々と見た三井サンは、それが誰かわかった瞬間、あほ面のままフリーズした。わっっっかりやすいなもう!だから言っただろ!

「誰だあの男」
「知らねーよ」
「だよな」
「え、そんだけ」
「は?何がだよ。名字が誰といようが、オレに関係ないだろ。・・・あの名字がねえ・・・」

何この人。上から目線の発言してるくせに、ガリガリくん溶けまくってんじゃねえか。あれから一口も食ってないからぼたぼた地面に落ちてんの、動揺してんのまるわかり。オレに関係ないって言うくせに、なんでそんな顔してんだよ。

「・・・」
「・・・」

気まずっ。
さっきまでアイス食ってた時とは打って変わってなんだこの気まずい空気。これがどうでも良いやつだったら、後追っかけるくらいしそうなのにな、三井サンデリカシーないし。
あーあ、言わねえ方が良かったかな。三井サン、眉間にシワ寄せてふてくされた顔してる。・・・めんどくせえ、帰りてえ。
そんな顔してんなら、早く自覚しろよな。全く。

「いいんすか、名字サンあいつに取られても」
「別にオレのじゃねえし」
「まあ名字サン可愛いもんな」
「はあ?あいつの?どこが!」

あいつ食いしん坊だし、口悪いし、すぐ拗ねるし、バカ力だし、アホだしどこが可愛いんだ。あんなん。
三井サンは名字サンの話になると急に饒舌になった。ほらー、そういうとこだよ。

「おいおい、惚気かよ」
「なんでそうなる」

名字サン、普通に可愛いじゃん。普通に名字サンのこと好きなやつがいてもおかしくないだろ。そりゃあオレはアヤちゃん一筋だけど。
名字サンのこと、ポンコツだって言うけどさ、それも三井サンの前でだけだって。この人ちゃんとわかってんのかな。

「激ニブだなあんたら」
「あ?なんか言ったか」

知らねえよ。そのうち名字サンから彼氏ができました、なんて言われて、オレに泣きついてきても。

「明日聞いてみましょうよ」
「別にいいだろ、ほっといてやれよ」
ほんっとに素直じゃねえな、この人は。
「・・・はあ、ならオレが聞きますよ」
「勝手にしろい」

心臓止まりそうな顔しやがってよく言うよ。



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