心の底に隠したのは

2012/09/22 22:42



一体何が起きているのか。
いつもと変わらない一日が始まると思っていたアルヴィンは目の前の光景に言葉を失った。

「ジュード…?」

隣で寝ているのは確かにジュードだが、普段のジュードより一回りも二回りも小さくなっていた。夢でも見ているのかと自分の頬をつねってみると僅かに痛みを感じ、目の前の光景が現実だとようやく実感する。
「じゃあこれ、どういうことだよ…」
なにか変ったことはなかったかと昨日を思い出してみても思い当たる出来事はない。
どうしたものかと考えていると、ふいにジュードが身じろぎし、目を覚ました。

「……?」

寝ぼけているのか何度か瞬きし辺りを見回すとアルヴィンを見上げ、また辺りを見回すのを繰り返し、ようやく意識がはっきりしたのか不安げにアルヴィンを見上げ

「お、おにいさんは、だれですか…?」

それを聞いたアルヴィンは頭を抱えそうになった。


心の底に隠したのは



どうしてこうなったのか…再び昨日を思い出してみるがやはり何も変わったことはなかった。そのまま物思いにふけているとジュードはどことなく不安げにアルヴィンへ尋ねる。
「あ、あの…」
「ああ悪い、俺はアルヴィンっていうんだ。おたくの名前は?」
「…ジュード、です…あのここは…」
「ああ、ここは俺の家だ。ジュードはどうしてここにいるんだ?」
「あ…よくわからないです。家で寝て、起きたらここにいて…」

なにが起こっているのかまったくわからなくてどうしようかと考えていると隣からぐぅ、と小さな音が聞こえ、音の出所を探すとジュードが顔を真っ赤にして俯いていた。
その仕草に笑いを堪えながらアルヴィンは一つ提案する。

「とりあえず、飯食うか」

そう言ってベッドから降りるとジュードもベッドを降り、俺の後ろについてキッチンへとついてきた。

「ジュードは何食べたい?」

「僕は…なんでも大丈夫です」

そんなジュードの返事に苦笑いを浮かべると

「そっか、じゃあちょっと座って待ってな」

そう言うとジュードは少し不安そうな顔をしたがすぐに頷いてリビングの椅子に座る。

「(さて、どうしたもんかねぇ…)」

朝食を準備しながらジュードの様子を盗み見ると、椅子に座り所在なさげに部屋を見回していた。
そんなジュードを見てアルヴィンはふと、あることを思いついた。

「(飯食べたら話してみるか)」

そう考え朝と昼を兼ねた料理を皿に盛るとジュードの待つテーブルへと持って行った。


***


「ごちそうさまでした」
「おう、おそまつさま」

食べ終えた食器を片づけるとジュードに向き直り椅子に座る。

「ジュードちょっと話があるんだ」
「?」
「ジュードの両親は今な、ちょっと遠くに行ってて、その間俺が預かることになったんだ」
「そうだったんですか…?」

不思議そうに聞き返すジュードに頷くとアルヴィンは更に続ける。

「だからしばらくは俺と一緒に住むんだけど…構わないか?」
「大丈夫、です。でもいいんですか…?」
「俺は平気だよ。じゃあこれからよろしくな」 

そう言っていつもの癖でジュードの頭を撫でるとジュードは驚いたような顔をして自分の頭を手で触っていた。

「どうした?」
「あ…あんまり、されたことなかったから…」

そういって少し照れたように俯くジュードにアルヴィンは、ずきりと胸が痛むような感覚に襲われた。

「あの…これからお世話になります」
 そう言って頭を下げるジュードに我に返るとアルヴィンは笑って
「ああ…こちらこそ、な」

そう笑ってまたジュードの頭を撫でた。
その後夕飯は何がいいかとジュードに聞くと

「あの…これからは僕がご飯作ってもいいですか…?」
「ジュードが?」
「これからお世話になるのに、僕が何もしないのは悪いんじゃないかって…」

そんなジュードらしい言葉に俺は苦笑する。

「いいのか?っていうか、作れるのか?」
「…家に一人でいたから慣れてるんです」

そう言ったジュードの顔は少し寂しそうに見えて顔を顰める。

「そっか、じゃあ頼もうか」
「はい!」
「あ、でも今食うもんあんまり残ってないんだ。一緒に買いに行こうぜ?」

そう提案するとジュードは一旦不思議そうな顔をしたが、笑って頷く。

「よし、行くか…っとその前に服着替えないとだな…」
「あ…でも僕服は…」
「…とりあえず、これ着てみるか」

そう言って持ってきた服はジュードの服で、なるべく小さめのものを持ってきたがこのジュードは本来のジュードより小さい。大丈夫なのかと考えているうちに着替えたのかジュードが話しかけてきた。

「あの、お兄ちゃん。これちょっと大きい」
「お?あーやっぱりか…じゃあ今日一緒に買いに行こうな」

ジュードの服は上着であるのにもかかわらず膝までの長さでワンピースのようになっていた。

「(これは…)」
「?」
「あ、いや、なんでもない。気にすんな?」

不思議そうに見上げるジュードの頭を撫でて簡単に支度すると家を出た。

「まずは、服買うか。いつまでもその恰好じゃ危ないからな」
「危ない…?」
「あー…」

首をかしげるジュードに言葉が詰まる。

「(なんていえばいいんだろうな…)」

そう思いながらしばらく歩いたところのデパートに入り、目当ての服屋を見つけるとジュードの手を引いて服屋へ入っていき服を探す。

「服がこんなにいっぱい…」
「好きなもん選んでいいぞ」
「え…でも」
「これから何日か一緒に暮らすのに必要だろ?遠慮すんなって。それとも俺が選んでよろうか?」
そうからかうように言うとジュードは少し機嫌を損ねたのか頬を膨らませる。

「自分で選べるよっ」
「ちょっとからかっただけだろ?じゃあほら、選んでこい」

そうジュードを送り出すとアルヴィンは店内を見て回る。服を選ぶジュードを見つけ、その持っている服を見ると大体が黒色をしていた。

「(昔から黒ばっかりだったのか…?)」

そんなことを考えていると選び終えたのかジュードが服を片手に戻ってきた。

「もう終わったのか?」
「うん」
「黒ばっかりだな、ほかの色はいいのか?」
「あんまり、好きじゃないんだ…」
「そっか、よし買うぞ」

ジュードの選んだ服を預かりレジへ向かい会計を済ませて時計を見ると時刻は14時を回っていた。

「次は食糧買わないとだな…行くぞ?ジュード」
「あ、うん!」

袋を持つ俺の後について歩くジュードを横目で確認しながら話しかける

「さて、今日は何作るんだ?」
「今日は…お兄ちゃんは何が食べたい?」
「俺?そうだな…」

何にしようか、などと考えていると距離が近かったせいか思いのほか早くついた食品売り場は平日のせいかあまり人はおらず、すぐに目当てのものを見つけた。

「お、マーボーカレーだ。」
「お兄ちゃんはマーボーカレーが好きなの?」
「ああ、大好きだな」
「じゃあ今日はマーボーカレーにする?僕、作れるよ」

にこっ、と屈託なく笑うジュードに俺も笑顔になる。必要なものを買い終わるとレジを済ましデパートを出ると家へと向かった。
家へ着くと早速ジュードはキッチンに立ち準備をし始めると「お兄ちゃん、お鍋はどこにあるの?」や「ご飯はどれくらい食べる?」など小さくなる前とほぼ変わらないな、とアルヴィンは内心苦笑しながら見つめる。
そんなアルヴィンに気づいたのかジュードはアルヴィンを見上げるとなにやら不服そうな顔で半ば睨むような眼差しを向けてきた。

「どうしたよ?」
「ううん、なんか笑われてるような気がしたから…あ、な、なんでもないです」

慌てたように言い直すジュードに引っ込ませていた笑いが表情に出てしまいジュードは
恥ずかしそうに俯く。

「悪い悪い、ジュードの反応が可愛かったからつい、な」

そう言うとジュードはますます顔を俯かせて「僕、可愛くなんか、ないです…」と小さな声でつぶやく。そんなジュードの頭をぐしゃぐしゃと撫でると

「ジュードは可愛いよ。それと、これから敬語は無しな。しばらく一緒に暮らすんだから、な?」
「え!?そ、そんなことダメですっ」
「俺がそうして欲しいんだよ。いいだろ?」

そんなアルヴィンの勢いに負けてジュードはゆっくりと頷きます。

「うぅ…わかりま、…わかった」
「あ、後俺のことはお兄ちゃん、もしくはアル兄ちゃんで頼む」
「え?…アルお兄ちゃん?」
「そうそう」
「お兄ちゃんか…」
「どうかしたか?」
「ううん、お兄ちゃん居なかったからなんだか嬉しくて」

そうはにかんだ笑みで見上げるジュードにアルヴィンは自分の顔が熱くなっていくのを感じた。

「(くっそ、やっぱりジュードは可愛い可愛い可愛い)」
「ア、アルお兄ちゃん?顔赤いよ?大丈夫?」
「っ!?だ、大丈夫だ。じゃあ俺座って待ってるな」
「うん!すぐ出来ると思うから、ちょっと待っててね、アルお兄ちゃん」

そうほほ笑むと再びキッチンに向き直り調理を始めるのを見守って、リビングに置いてあるソファに座る。黙々と調理しているジュードを見ながら今後について考える。

「(このまま戻らない…ってことはないだろうがいつまで子供のままなんだ…?とはいえ原因もわからねぇからどうしようもねぇし…)」
「―ル――いちゃん…!」
「(昨日はジュードに特に変わったところはなかったし…いっそバランに聞きにいってみるか?…いや、なんかバカにされそうでいきたくないな…)」
「アルお兄ちゃんってば!!」
「うおっ!?ジュードいつからここに…」
「さっきから呼んでも返事なかったから…何度も呼んだんだよ?」

心配そうに顔を見てくるジュードに周りの音が聞こえないくらい深く考えていたのかとようやく理解した。

「ちょっと考え事してただけだからさ、ごめんな?」
「ううんそれならいいけど…」
「そういえば用事あったんだろ?どうした?」
「あ、そうだった!あのね、そろそろご飯出来るからって言いにきたんだ」
「もうか?早いな」
「結構簡単だからね…じゃあ僕よそってくるね」

そえだけ言うとキッチンへと向かうジュードの後を追ってアルヴィンもソファから立ち上がり手伝うためにキッチンへと向かった。


テーブル上に並べられた料理はとても小さな子供が作ったとは思えない完成度で知らず知らずのうちに口からは驚嘆の声が上がる。

「これ全部作ったのか…?」
「うん、メインはマーボーカレーだけどそれだけだとバランスが悪いからサラダも作ったんだ。後はデザートに果物…切っただけなんだけど」
「(こんな小さい時からこのレベルかよ…)」

ジュードの料理の腕前は前々から知っていたがまさかこの年齢でここまでの腕前だとは思いもしなかった。

「じゃあほら、あったかいうちに食べよう?」

突っ立ったままのアルヴィンにジュードはそう話しかけて椅子を引いて待つすジュードに促されるままその椅子へと座った。

「いただきます」

目の前のマーボーカレーを一口食べると独特の辛さが口の中で広がる。パレンジも入っているのか程よい甘さもプラスされて旨さを相乗させているようだ。

「ど、どうだった…?」
「美味い。すごいなジュード、まだ小さいのにな」
「む、小さいは余計だよ。…でもよかった、アルお兄ちゃんに気に入ってもらえて」

ほっとしたような安心したような顔で笑うジュードにつられてアルヴィンも笑顔になり、食事が終わるまで笑顔が絶えなかった。






「ジュード、寝る準備は終わったか?」
「うん…でもほんとに一緒のベッドでいいの?」
「ほかにどこで寝るんだ?まぁ少し広いから一緒に寝れるだろ」

先にジュードを横にした後その隣にお互いを向き合うようにアルヴィンも横になる

「あ、俺明日から仕事があるんだ。昼は一緒には食えないが夜は一緒に食べような」
「お仕事…」
「休みの日はどこか出かけような」
「…いいの?休みの日なのに…」
「俺がジュードと出かけたいの。明日俺はいないけど家の中の物好きに使っていいからな。ただし怪我はするなよ?もし怪我したらすぐに言うこと。わかったか?」
「…わかった」
「よし、じゃあもう寝るか。おやすみ、ジュード」
「うんおやすみなさい、アルお兄ちゃん」
そういうとジュードはもう眠かったのかほどなくして寝息をたて始めた。
「だいぶ疲れてたんだな…」

慣れない環境で一日を過ごすのは意外と体力を使う。
眠るジュードのさらさらした髪を優しく撫でながらアルヴィンも眠りに落ちた。

翌日、目を覚まして隣にいるジュードを見てみるとやはり昨日の小さいままで「流石に一日で治るわけないよな…」とぼやきながら起き上る。
顔を洗い、一通り支度が終わったころにジュードは起きてきた。

「おはよう、ジュード。よく寝れたか?」
「おはよう、アルお兄ちゃん。僕、起きるの遅かった?」
「いや早い方だぜ?」
「よかった…じゃあ朝ご飯作るね」

そう言ってキッチンへ入っていくジュードに声をかける。

「ジュード今日はご飯とパンどっちにするんだ?」
「あ、そっか…じゃあパンにして軽めなもの作るね」

そう笑って卵を取り出してくると

「アル兄ちゃんパン焼いてくれる?」
「りょーかい。任せとけ」

差し出されたパンを片手にトースターへと向かう。セットし終わるとジュードがスクランブルエッグの乗った皿と何種類かのジャムを片手にテーブルへとやってくる。

「お、美味そう。」
「そう?よかった。パンもそろそろ出来るかな」

料理をほめると本当にうれしそうにほほ笑むジュードの顔が少し前の―15歳のジュードと重なって見えて思わず動きが止まる。

「アルお兄ちゃん…?」
「あ、いや、なんでもないから気にすんな?」

そう答え、ジュードに気づかれないように頭を撫でると後ろでトースターがチン、と音を鳴らした。

「じゃあ行ってくる。絶対誰が来てもドアは開けちゃダメだからな」
「うん、わかってる。」
「絶対だからな!」
「わかったよ。ほら出ないと遅刻しちゃうでしょ」

そう言って押してくるジュードにダメ押しと言わんばかりに

「約束だぞ?」
「うん、約束する。だからほら、遅刻しちゃうって」
「行ってくる」
「いってらっしゃい」

数分の攻防はアルヴィンが折れる形で終わりを迎えようやくアルヴィンは会社へと出勤していった。

「アルお兄ちゃんは何を心配してたんだろう?」

元々一人で家にいることが多かったし、お父さんやお母さんにはそんなに心配なんてされなかった。だからアルお兄ちゃんがあんなに心配することにびっくりしてしまった。

「あ…僕の事預かってるから、かな…」

そうだ、両親がいない間だけって言ってたけれど…そこまで考えて首を横に振る。
こんなことは今考えなくてもいい。今は両親とではなくてアルお兄ちゃんと暮らしてるんだから。気を取り直して何をして時間をつぶそうか考えているとふと昨日の夜アルお兄ちゃんが話していたのを思い出した。

「そうだ、家の物好きにしていいって…でもいいのかな…」

そう思いつつも足はある場所へと向かう。昨日ちらっとだけ見えた部屋。

「失礼します…」

誰かがいるわけでもないのにそうつぶやいて中へと入るとそこには大量の本が棚に入れられていた。

「わぁ…」

見覚えのある本や見たことのない本が所せましと入っていてジュードは目を輝かせる。

「すごい…こんなにいっぱいの本は初めて見た…」

近くの棚に入っていた本を一冊取ってぱらぱらとページをめくる。読み終わるとまた次の本へ…気が付けば外は暗くなっていてジュードははっ、と我に返るとすぐに時計を確認した。時計の時刻は午後6時を過ぎていた。

「あ!ご飯作らないと!!」

そう思い出したジュードは急いでキッチンへと向かい支度を進める。

「朝はパンだったから、夜はご飯物のしよう…なにがいいかな…」
冷蔵庫の中身を見ながら考えているとふと、昔食べたことがあるものを思い出した。

「そうだ…あれを作ってみよう、確か材料は…」

冷蔵庫から使う材料を次々取り出していき、調理を始める。

「よし、できたっ」
「ただいま」
「あ、アルお兄ちゃん、おかえりなさい。ご飯出来てるよ!」

ちょうどタイミングよくアルお兄ちゃんが帰ってきて、出来上がった料理を盛り付けてテーブルへと運びだした。




「お?今日は肉じゃがか?」
「うん、前にお母さんが作ってくれたんだ。それを思い出して」
「そうか…じゃ、早速食べるか。いただきます」
「いただきます」

ジュードの作った肉じゃがを二人で食べながらアルヴィンはジュードを見る。

「(このままってのはやっぱりダメだよな…今度バランにでも話してみるか…)」

そう考え目の前のご飯を平らげるといつものようにジュードと一緒のベッドで眠りについた。





それからしばらく経った日のこと。いつもと同じようにアルお兄ちゃんをお見送りするために玄関まで一緒にいると

「悪いジュード、今日はちょっと帰るのが遅くなりそうだから先に食べててくれないか?」
「そうなの…?わかった、先に食べてるね」

アルお兄ちゃんが仕事で帰りが遅くなることは度々あって、またいつものようにしていればいいと思って二つ返事で了承した。
けれど今日はちょっとだけいつもと違っていた。でもそれに気づかないふりをしてアルお兄ちゃんを見送る。

「行ってくるな。」
「うん、いってらっしゃい」

そうしてアルお兄ちゃんが家を出ると日課になっている読書を始めた。
しばらくしてなんだか頭がぼんやりとして本の内容が入ってこなくなった。

「どうしたんだろう…お水飲めば大丈夫かな…?」

そう言ってキッチンへと水と取りに行き、飲み干してもまだぼんやりとしたのは取れない。

「これ…風邪…?」

そう気づいた時には少し遅く、そのまま僕はキッチンの床に倒れて意識を失った。





「バランはいるか?」
「おや、珍しいねアルフレドが僕の所にくるなんて。明日は槍かな」
「うるさいな、ちょっと用事があるんだよ」
「へぇ、一体何の用だい?」

久しぶりに会う従兄弟のバランは相変わらず辛辣な態度だが一応もっとも信用がおける人物だ。

「ジュードのことでちょっとな…」
「ジュード君かい?最近あまり見ないね。前は何日かに1回は来ていたのに」
「あージュードは今な、小さくなってるんだ」
「小さくなってる?どういうことだい?」

バランへ一連の話を掻い摘んで話すと少し考える素振りを見せた後

「うん、ごめん。それ僕のせいかも」
「は?」
「まさか小さくなるなんて…僕は特になんともなかったんだけどねぇ」
「いや、おまえのせいってどういうことだよ!」
「いやーあれは最後にジュードくんを見た日で、確か次の日からお休みを取ってた日だったかな。」

そう話し始めたバランの話に俺はため息をつくことになった。

「ってことはお前がジュードに飲ませた飲み物が原因ってことだな?」
「たぶんね。でも僕が飲んだ時は何にも起きなかったよ?」
「一体何飲ませたんだよ。」
「ああ、見るかい?」

そういってバランは何やら薬が大量に入っている棚まで歩いて一つの瓶を手に取ると戻
ってきた。

「これだよ。」

バランが持っている瓶の中身は綺麗な水色で薬…とは思いづらいものだった。

「これをジュードに飲ませたのか?」
「厳密に言うと僕も、だけどね。」
「それからジュードがああなった…ってことはやっぱりこれが原因ってことだろ?何も書いてないのか?これ」
「特に書いてはなかったと思うけどねぇ…あ、」
「どうしたよ」
「ちょっと見えにくいとこに何か書いてあるね…何々…この薬は服用者の心の底に隠しているものを引き出します…だってさ」
「心の底に隠しているもの?それのせいでジュードは小さくなったのか?」

瓶を眺めるのをやめたバランは俺に向き直ると

「僕には何の効果もなかったんだけど…」
「お前には隠してるものないだろ」
「うっわ、そんなこと言うとアルフレドの飲み物に混ぜて出しちゃうよ?」
「くっ…」
「とにかくこれが何か作用してジュードくんが小さくなったわけだ。…期限とかは書いてないみたいだし…しばらくは様子見かな。」
「もう何日も経ってるけどな。まぁいいやそろそろ帰るな、ジュードが待ってるし」
「ああ、また何かあったら教えてよ」

そんなバランの声を聞きながら部屋を出ていった。



「ジュード、悪い遅くなった…って」

家へと帰るといつもならついている電気もついておらず、迎えに出てくるジュードも来ない。
何かあったのではないかと急いで中へ入り電気をつけてジュードを探すとキッチンの所で倒れて気を失っているジュードを見つけた

「ジュード!!」

急いで駆け寄り抱き上げると熱が出ているのか服越しでもわかるほどジュードの体は熱
かった。
ベッドへ横に寝かせて水で濡らしたタオルを額に乗せ、手を握っているとジュードの瞼がわずかに動きやがてゆっくりと目を覚ました。

「ジュードッ!」

そうジュードに呼びかけるとゆっくりとアルヴィンの方へ向いた。その目はおぼろげで宙を見つめていた。

「ジュード、大丈夫か?」
「ぁ…」
「ジュード?」

おぼろげだった目はアルヴィンを認識すると大きく見開かれジュードは小さい声で何かをつぶやく。

「ご、ごめんなさい…」
「ジュード…?」
「だいじょうぶだから、だからおしごと…いってきて?」

そういうジュードは力がうまく入らない腕でアルヴィンを押してくる。

「おしごと…」
「大丈夫だって、仕事終わったから」
「でも、まだ…くるかもしれないから…」
「来るって…誰がだ?」

そうジュードに問いかけるとジュードは小さく「かんじゃさん…」とつぶやいた。

「(患者って、俺を両親と思っているのか…?)大丈夫だって、今は自分のこと考えてろ」
「でも…」

意識が混濁しているんだろう、と思いジュードを横に抱き抱えてサイドテーブルに置いておいたお粥を一口すくってジュードの口元まで持っていく。

「いいから、ほらお腹空いただろ?お粥作ったから少しでも食べたほうがいいぞ」

ほら、とジュードの口元にさらに近づけるとようやくジュードは口を開いた。

「美味いか?」
「う…ん」
「まだ喋らなくていい。ゆっくり食べような」

こくん、と頷くジュードにまたお粥を持っていきそれを何度か繰り返してしばらくするとようやく食べ終わった。

「ほらこれ薬。」
「…のむ…」

ゆっくりとした動作でを受け取るジュードに水を渡して飲んだのを確認すると再びベッドへ横にしようとした時、ジュードはアルヴィンの服を掴み顔を埋めている。

「ジュード?」
「……」
「どうした?まだ具合悪いか…?」
「こ、こ…ぃ…」
「ん?」
「ここに、いて…いっしょに…いて…」

若干嗚咽が混じったジュードの声。そんな声聞いたことなくて内心焦るが

「大丈夫、一緒にいるから。ずっと一緒にいるから。」
「…ほんと…?」
「本当だよ。だから今は風邪を治すことを優先してくれ。」
「…うん」

その返事を最後にジュードは眠りに落ちた。それを確認してジュードを抱きしめたままベッドに横になるとバランが言っていたことをふと思い出した。

「(心の底に隠したもの…か。ジュードの場合は子供のころのわがまま…ってとこか?)」

俺の服を掴んだまま眠るジュードの髪を優しくすいて額に手を当てる。熱は少し下がっていたようだがまだ安心はできない。
ふと顔を見てみると頬には何筋かの涙の後が残っていた。
それを指でなぞっているとジュードはあもぞもぞと動きさらにアルヴィンへとくっつく。
そんなジュードに笑いながら抱きしめる力を強めるとアルヴィンも眠りへ落ちて行った。





次の日の朝、ジュードは目の前の光景に驚きのあまり呆然としていた。

「(え、え?なんで僕、アルヴィンに抱きしめられてるの!?)」

起きたばかりで状況がつかめていないジュードはアルヴィンに抱きしめられたまま何があったのかを必死に思い出そうとしているとふいに横でアルヴィンが身じろいだ。

「ア、アルヴィン…起きてっ」

必死にアルヴィンを呼ぶとようやく起きたのかゆっくりと目を開けた。

「ア、アルヴィン…僕どうして」
「おー、元に戻ったのか?ジュード」
「え?元に戻ったって…ってちょっと、寝ないで!」

その後何度もアルヴィンを起こそうと肩を揺らす。
ようやくアルヴィンが起きたのはそれから30分ほど経ってからだった。


「え?僕が子供になってた?」
「ああ、すっげぇ可愛かった」
「や、やめてよ、もう…僕、迷惑かけなかった?」
「全然、むしろほとんど変わらなくてこっちが焦ったよ」

ソファに座ってジュードを後ろから抱えながら昨日までのジュードを振り返る。子供になっていた時のことを話すとジュードは恥ずかしそうに俯く。

「でもやっぱりジュードは今のジュードがいい」
「どうしたの?いきなり」
「たとえ小さいころ寂しかったとしても、これからを幸せにしてやれるだろ?」
「!ア、アルヴィンそれって…」
「一緒に幸せになろうか、ジュード」
「うん…一緒に幸せに…」


二人手を取り合い、笑ってそう誓い合った




心の底にかくしたのは
     幼い子供の小さなわがまま。









後書き

前へ | 次へ


コメント
|
名前:

メールアドレス:

URL:

コメント:

編集・削除用パス:

管理人だけに表示する


表示された数字:




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -