拍手連載6話

2012/07/20 18:11



「アル兄ちゃん」



幼いころの僕が誰かに向かってそう呼びかける


ーあぁ、これは夢だ


周りを見渡せば見覚えのある家と診療所。
そして・・・僕が誰かに走りよるこの風景は何度となく夢に出てきた。


ー・・・・・・?


いつもはここまでで終わるはずの夢は、なぜかいつまでも続いていた





6話






アル兄ちゃんがきて2日目、この2日間で僕とアル兄ちゃんはだいぶ打ち解けたと思う。
初めて会った人にここまで気を許すなんて僕自身びっくりした


「ジュード、今日は何したい?」

「え?・・・えっと」

「何かあるか?」


アル兄ちゃんはいつも話す時は僕の目線までしゃがんで目を合わせてくれる。
そして僕が話すまでずっと待っていてくれる・・・そんな経験なんて僕にはなくて
そう思うとなんだかアル兄ちゃんに申し訳なくて、そんなことをさせている自分が情けなくて少し胸が痛んだ。


「ごめんなさい・・・思い、浮かばないです・・・」

「謝ることじゃないだろ?んー今日はどうすっかな」

「あ、の・・・僕のことは気にしないでください」

「ん?」


顎に手を当てて考えるアル兄ちゃんに罪悪感に駆られる
僕のために時間を割いてもらうなんて迷惑なんじゃ・・・
そう思っていると俯いていた僕の頭をアル兄ちゃんの大きな手が触れた・・・と思ったらそのまま勢いよく僕の髪をぐしゃぐしゃにする


「わっ!!?何、何!?」

「迷惑なんかじゃないからな」

「え・・・・・・?」

「子供は黙って大人に甘えとけばいいんだよ」


ようやくアル兄ちゃんの手が離れて、ぐしゃぐしゃになった髪を整えながら復唱する


「甘え、る・・・?」

「ああ、お前はなんでも抱え込みすぎなんだよ。俺でいいならいくらでも甘えて構わないぜ?」

「どう、やって・・・?」

「んー・・・まずは、ため込んでるもの全部話せれば合格かな」

「ため込んでるもの・・・」


アル兄ちゃんが言う僕がため込んでるものがなんなのかわからない。
むしろ僕が何かをため込んでいるなんて気がつきもしなかった。


「まさか、無自覚か・・・?」

「え?」

「いや?ここじゃなんだから家にいくぞ」


そういうとアル兄ちゃんは僕の手を引いて家へと向かっていく。



ーやめて、



ーそんなこと知りたくない



ー知らないままだったらよかったのに・・・







「ここでいいか」


そう言って入ったのは僕の部屋。アル兄ちゃんは先にベッドへ座ると僕を膝に向かい合わせるように座らせると、ようやく口を開いた。


「ジュード、誰にも言えなかったこと、言ってみな」

「え・・・・・・?ない、よ・・・?そんなこと・・・」

「嘘いうな」

「ない、よ・・・言ったら、アル兄ちゃんに迷惑かけちゃう」

「迷惑なんて思わねぇから」

「ダメ、だよ・・・迷惑が・・・」


若干震えてきた体を抱えるように抱きしめているとアル兄ちゃんは僕を抱えるように抱きしめてきた


「ほら、これなら誰にも見られたりしないだろ」

「・・・っ・・・・・・」


その優しい声と暖かい体温に涙があふれてきた。
泣いていることを誰にも見られたくなくて、アル兄ちゃんの胸元に顔を押しつけると言えなかった言葉が溢れてくる


「寂しい、よぉ・・・」

「・・・・・・」

「でも、迷惑に・・・なっちゃ、う・・・」

「大丈夫だから、迷惑じゃないから」

「アル、兄ちゃん・・・」


背中を撫でていたアル兄ちゃんの手が頭を撫でる
今まで溜めていたものを吐き出したからなのか眠気が僕を襲ってきた。


「もう寝るか、ジュード。」

「う・・・ん」


そのまま眠気に誘われるまま目を閉じた。











それから数日後、アル兄ちゃんのお母さんが退院することになった。もちろんアル兄ちゃんも帰ってしまう日。


「アル兄ちゃん・・・・・・」

「ジュード今日でお別れだな」

「うん・・・」



ーこの時行かないでって言えたら少しは違っていたのかな・・・


ーけど僕は言わなかった



ー・・・言えなかった・・・・・・









アル兄ちゃんがいなくなってからまた前みたいな生活に戻った。
前と違うことは・・・僕は独りに弱くなったってこと。
前は独りでも耐えられたのに、今はふとした時にアル兄ちゃんを探してしまう。
もういないのに・・・僕はまた独りぼっちになってしまった



「こんなことなら甘えるなんてこと知らなきゃよかった・・・」


ーこんなことなら甘えるなんてこと知らなきゃよかった・・・






「僕はどうしたらいいの・・・?」










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