花を愛でるのにも飽きた。

あの曇り空から降る雨は私の心までもをどんどんと暗くして行くのだ。どんどん、どんどん。
月見窓を開けて外を見れば、濃い灰色の雲からは大粒の滴が降っていた。まだ止まない、雨だ。
元々、あの人ほどではないが雨は好きじゃない。それこそ今の心境はお日様を拝むほどに見たいものなのだ。天照大神様どうかどうかお顔をお見せ下さい、そんな風に。


「雨が入る」


ぼんやり月見窓の外を覗いていると、あの人の不機嫌な声がして思わずそちらを見た。

「元就さま」

やはり不機嫌らしい。いつもより数段細められた瞳が嫌そうに歪んでいる。

「貴様は馬鹿か。何故わざわざ曇天を見る必要がある」
「お祈りをしていたんですよ」
「祈祷だと?」
「ええ。早く雨が上がるよう」

わざとらしく胸の前で手を合わせれば、元就さまが考えるように一つ唸ったあと、酷くゆっくりとした動作で部屋へと入って来た。


「我も祈祷しよう」
「雨が上がるよう?」
「他に何がある。」
「いいえ、いいえ。貴男様にそれ以外求める訳がありますまい」


元就さまが鼻で笑ったので、私は深い溜め息を吐いた。


「憂鬱」
「えっ」
「貴様の顔にはそう書いている。」
「え、ええ。憂鬱ですとも。」


まさか顔を見られているとは、思ってもみなかったことに一瞬戸惑った。
戸惑いのまま、ふらりふらりと視線を泳がせていれば、元就さまが私の髪に触れた。


「あっ」
「髪が重くなっている」
「湿気ででしょう」
「そうか、我の髪質とはまた違う」
「これはまた異なことを」
「なに?」
「他人は他人、それぞれ違いましょう」


違って当たり前なのですよ、じっと元就さまの目を見れば少しだが目元が和らいだ。


「そうか。貴様は多弁に我を弄す」
「弄すなど」
「皮肉が混じっているではないか。」
「ああ」


ぱちぱち、瞬きをすれば元就さまの手が一度頬を撫でた。
癖で、笑んでしまう。


「皮肉笑いか、」
「まさか。心よりの素直な笑みです。」
「ほう、我にはできぬ」
「さあどうでしょうか」


さらさらと月見窓を閉めて元就さまを見れば、何故だか小首を傾げていた。


「雨」


言葉が被った。ぱくりと次の言葉を呑み込めば、元就さまが一拍後に続きを仰有られる。


「雨は意外と入っては来ない」
「謎掛け?」
「そう思うか」
「ええ。もしくは、随分と寛いお心持ちになられたように思います」
「そうか」


珍しく口元が柔らかくなった。どうやら後者で合っていたらしい。
私が珍しいと見ているのに気が付いたのか、元就さまがこちらを見てまた眉を潜めた。


「貴様が先ほど呑んだ言葉はなんだ」
「お気になさらず、ただの戯れ言ですよ。」
「気になる」
「まあ」


わざとらしく笑ったあと、ふっと視線を外してみせた。


「ただ、雨が降った時に貴男とこうして物語するのも好いと思ったのですよ。」


随分と達者な口を利く女ぞ、元就さまにしてはえらく優しい声音の文句に、私はやはり笑ってみせた。



雨中の二人





黒乃薔薇様へ捧ぐ

春月さくら拝
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