[> いんちゅーん






(逆トリップ)







三成さんが湯浴みしている間、リビングに一人いる私は暇を持て余していた。
三成さんがいたら嫌でも気が張ったり(嫌味言われないかな、とか)話したり(一方的なお説教とも謂う)して暇だなんて全く言えない状態なのだが、こうして一人になると急に暇になってしまった。

「今まで独り暮らしだったのに」

なんという進歩。うん?退化?違う違う。
なにせ私はやることもなくぼうっとしていた。テレビ番組は面白くない。リモコンを弄るのは何となく面倒だ。

うーんと唸りながらふと机の下に備え付けられた棚を見れば何ヶ月も前に買った雑誌が置いてあった。手に取って見る。

「何でこんなの買ったんだ私…あっ」

鞄の中に入れたままだった携帯音楽プレーヤーのことを思い出し、自室へ駆け足で取りに行く。
確か中のポケットに、あっ有った。そんな独り言を呟いて目当てのものを手にする。
リビングへ戻りながら選曲して流す。

リビングへ戻りソファーの定位置に座って雑誌に目を落とす。



「おい」


ふと雑誌から顔を上げると湯上がり姿の三成さんが居た。

「…おかえりなさい?あれ、いつの間に、」
「さっきからずっと居たぞ、私は。お前が書見していて気が付かなかっただけだろう」
「…あの、すみませんもう一度仰有って頂けませんか?」

雑誌を机に置いたあとイヤホンを取る。取りながら尋ねれば、訝しげな目と合った。


「なんだ、それは」
「雑誌ですよ」
「違う。貴様が耳に着けていたそれだ。」

どうやらプレーヤーのことらしい。

「携帯音楽再生機器です」
「音が聞こえるのか?そんなに小さなものから」

私の右隣に三成さんが座った。

「聞こえますよ。そりゃもうばっちり」
「ほう」

プレーヤーと私とを三成さんが見比べる。なんとまあ分かり易い。

「聞きますか?」
「ああ」

イヤホンを渡せばおずおずと三成さんが自分の耳まで運ぶ。耳に入れた瞬間、ぱっとイヤホンを私に突き返した。

「何だこれは!」
「イヤホン」
「間近で爆音がしたぞ、それも両方から。」
「え、爆音?」

そんなに設定音大きかったのか。かちかちと音量を下げてからまた三成さんに渡せば至極嫌そうな顔をされた。

「どうぞ」
「いらん」
「あら残念。なら私が聞いちゃいますよ。多分、もう聞けないんですよ。残念だなー」

棒読みでそう言えば、三成さんが苦虫を噛んだみたいな顔をした。

「…貸せ」
「どうぞ」

素直な人だなあと渡しながら心中笑えば、三成さんが片一方を私に渡した。

「それ左に着けて下さい」
「着けろ」
「三成さんに?」
「違う、名前がだ」

…そう言われても。ただでさえ短いイヤホン。かつ右ではなく左を渡された私。左右逆に着けろと?

「…あの、これぎゃ」
「着けろ」
「…ぎゃ」
「良いから着けろ」

そうか、コイツ分かってて言ってるのか。なんて適応力だこの人。ムカつくから左右逆に着けてやろう。
落ちやすいイヤホンを手で押さえていると、三成さんが眉を潜めた。

「逆だろう」
「逆ですよ。でも二人で左右正しく着けたらとんでもない密着率ですよ」

ただでさえ短いのに、そう続けようかと思っていたら、三成さんの細い手がこちらに伸びて来たので言えなくなってしまった。

「着けてやる、正しい方に」


左にぴったり、イヤホンがハマった。

あれ、何だこの展開。三成さん、と名前を呼ぼうとしたとき、右半身がぴったりとくっ付いた。


in tune


くっ付いた場所だけ熱い。
なんだ、心の臓の方がうるさいな、そんな三成さんの言葉にコイツ分かっててやったなと悟った。


 

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