[> ロマンチズムの峠






「轆轤首の首をちょんぎったの」
「轆轤首の?」
「そう、轆轤首の。内緒にしてね、名前」
「内緒にするよ市」


市が唇に右手の人差し指を当ててしぃーなんてするから、どんな話しだろうかなと思って聞いていれば彼女らしい御伽噺だった。ちょんぎったの、なんて、市らしいじゃない。


「でも市、轆轤首の胴体はどうしたの」
「川に流したの」
「川に?」
「そう。血が止まらないから、川に流したの。」


現実味を帯びた御伽噺に苦笑いする。


「どこの川?」
「お城の中を流れる川よ。ずっと下ると海だって長政様が言ってた」

長政様ったら嫌なことを教えたなあ、とまた苦笑いする。

「なら今頃、海に浮かんでたりしてね」

冗談でそう言えば、市は至って真剣な面持ちで首を横に振った。

「ううん。まだお城の中」
「…へえ?」
「見てみる?」
「うん」
「なら名前にだけ見せてあげる」


こっちよと城内のお堀まで連れて行かれた。


「ほら、見て名前」

市の指差す先には細い水路があった。その前に蓋をするように何かが浮かんでいる。


「あっ」


轆轤首だ。そう認識したのは死体が最近間者と噂されていた侍女の着物と同じだったからかも知れない。


「首は名前の後ろにあるよ」



 

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