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お兄様がお亡くなりになった。 その日はよく晴れた美しい日で、私は髪を梳かしているときに侍女からその話しを聴いたのだ。私は思わず櫛を手から落として唇を震わせた。 「お兄様が…?」 「は、半兵衛様がっ」 かたん。そんな音がして、侍女はおいおいと涙を流し始めた。私はゆっくりと立ち上がって部屋を出た。 廊下に出る。日差しが見えて私は壁に手を付いた。白い美しい壁だ。がっくりと膝を着けば唇が弛緩した。 「ふ、ふふ」 ああ、なるほど、だからか。そんな事を思うと笑みがこぼれた。 なるほど、だからこの前逢ったとき、あんなに元気がなかったのか。 なるほど、だからこの前逢ったとき、あんなに私に優しくしたのか。 なるほど、だからこの前逢ったとき、あんなに熱に浮かされていたのか。 なるほど、だからこの前逢ったとき、いつもなら囁かない睦言を囁いたのか。 なるほど、だからこの前逢ったとき、私に、 「名前様」 知った声に振り向く。 「三成さん」 「どうなさったのですか」 「…聴いてらっしゃらないのですか」 そう尋ねれば、三成さんは訝しげな表情をした。 「何を」 「お兄様が」 「半兵衛様が?」 「…お亡くなりに」 三成さんは切れ長の目を一杯に見開いて私の腕を握った。 「名前様」 「はい」 「それは、真ですか」 「真に」 見る間に力が抜けて行く三成さんは私の肩をそのまま抱き寄せた。 「半兵衛様が」 「はい。本当に立派な兄でした」 ゆるゆると三成さんの背中に手を遣れば、より一層強い力で抱き寄せられた。 鼻を啜る音がして、幽かに私は笑みを浮かべた。 「私は、秀吉様を」 「ええ」 「半兵衛様の代わりに」 「はい」 意外と柔らかい髪を撫でる。 空を見れば今の私には辛いほどに明るい太陽があった。 括笑弧 おめでとう三成さん。今日から私は貴男のものです。なんちゃって。 半兵衛様と妹君は恋仲。妹君と三成さんは恋仲。 そうだね!〇ッチだね! 題の読み方は『(笑)』です。 ←|→ |