[> だから伏せたのです









女の子なら誰だって思うことよ、母に話せばそう言って笑った。


「前世からの赤い糸ってすてきっ!」

目の前で卵焼きを突っついていた鶴ちゃんが瞳を輝かせた。ああ、あれか、私も卵焼きを摘みながら納得した。昨日放送してたドラマだ。恋愛ドラマ、嫌いだから見ないけどCMで見た。

「どうして赤い糸なんだ」
「あれだよ、ドラマ」
「見ました?名前ちゃんにかすがちゃん」

見てないよと二人で首を振る。なあんだ、鶴ちゃんは肩を落とした。

「すてきだったんですよ!」
「そんなドラマより、私は謙信様が良い。」
「むう…名前ちゃんは?」
「現実主義者ですから」

たこさんウインナーを摘みつつ答える。鶴ちゃんは乙女なのに!とますますムッとして卵焼きを口にした。かすがちゃんと私で顔を見合わせたあと、二人してくすくす笑う。

「前世や赤い糸なんてないよ。」







名前、名前?
入学した日に配られた名簿を見て驚いた。同じクラスの女子に名前がいる。思わず辺りを見回した。
あっ、声に出しそうになったのを必死に抑える。柔らかい黒髪に薄く赤い頬、長い睫毛に縁取られた黒目がちな瞳。ああ、

「名前」

名前の前の席の女が声をかけた。どきりと何故か心臓が跳ねた。

「どうかしたの、かすがちゃん」
「お前、」
「うん?」

首を傾げる仕草も声も寸分と変わらない。私は今にも駆け出して抱き締めたい衝動を必死になって抑えていた。
しかし自分の内と戦っている間にも耳だけは鋭い。

「このクラスに知り合いはいないのか」
「かすがちゃん」
「私以外で」
「うーん…いない、かな。」
「そ、うか」

目が合った。名前とではなくその前の席の女と。

「そうか」

すぐ逸らされた目に名前は気が付かないのだろう。また首を傾げた、どうしたのかすがちゃん、そんなセリフ付きで。


何となく分かっていたが、


名前は、私を覚えていないのだろう。


すでのたせ伏らかだ



一周前の私の記憶のお前はあかい。





多分続く。きっと続く。いっそ中編連載する勢いで続きます。


名前さん以外、前世の記憶あるとかないとかそんなん。



 

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