翌日教室へ入ると、キラキラと輝いた笑顔をした聖川くんのほうから挨拶をしてくれた。
その笑顔の可愛さに感動し、思わず声を張り上げながら挨拶を返す。ついでに後ろの席で読書をしていた一ノ瀬くんにも元気よく「一ノ瀬くん!おはよう!」と言ったら、顔を顰めながら「おはようございます…」とぼそりと呟かれた。
どうやら少し鬱陶しがられたようだ。



僕らは青春スター 07



それから授業を受けたり、寝たり、お昼を食べたり、寝たり、寝たりを繰り返すうちに、放課後はすぐにやってきた。
ちなみに昼ご飯は聖川くんと食べたのだが、メロンパンを頬張る姿がとてつもなく可愛かったのが印象的だ。まぁ、そのせいで私は昼食で頼んだミートスパゲッティが半分程しか喉を通らず、今とてもお腹を空かせているのだが。

「…だからって今ここで菓子ばっか広げんなよ」
「えー、だってお腹空いたし」
「あっ、じゃあさ、購買に菓子パン買いに行こうよ!」
「音也も誘うな!!今から話し合いだ!!」

私たち2年B組の教室で4つの机をくっつけたその上は、私と音也が持ち込んできた沢山のお菓子が広がっている。ポッキーにクッキー、ポテトチップスにチョコレートなど、その種類は様々で、我ながらすごいと思ってしまった程だ。
ポッキーを食べながら、キャンキャンと煩く鳴く翔ちゃんを適当に流す。途中、聖川くんにそれを差し出すと、物珍しそうな目で見つめながら黙ってポリポリと食べ始めた。

「話し合い?何の?」
「何の?ってお前なぁ…色々あるだろ」

溜息を吐きながら話す翔ちゃんにもポッキーを差し出すと、1本手に取り、聖川くんとは正反対に一気にボリボリと食べてしまった。彼は見た目とのギャップが激しすぎる。
そんな彼を尻目に、音也と聖川くんに目を向けると、音也が何やら聖川くんにスナック菓子を勧めており、聖川くんもそれに夢中であった。再び翔ちゃんへ視線を向けると、彼も横の2人を見ていたのか、深く溜息を吐いた。

「俺らまだバンドらしいこと1回もしてねーじゃん」

少し拗ねたようなムッとした表情でぼそりと呟いた翔ちゃんの言葉に、さすがの2人もお菓子を食べる手をを一旦休め、漸く彼のほうを向いた。メンバーの自由気ままな様子に、王子は少しご立腹のようだ。
途端、静まり返る放課後の教室。私たち以外に誰もいない教室内は物音1つしなかった。
なんとなく、居心地が少し悪い。

「うーん…バンドらしいことって言っても楽器も決まってないしなぁ…」

その時、口を開いたこの場の救世主は音也であった。
音也は言葉を紡いだ後、天井を仰ぎながら考え込むように顎に手を乗せ、うーんと何度も唸るような声を上げた。どうやら口を開いたのは良いものの、その後のことは何も考えていなかったようだ。
再び教室に流れる妙な空気。王子の機嫌が珍しく悪いので、お菓子を食べる手を静かに膝の上に置く。今の状態では、お菓子を食べるなんてことは、到底出来ない。

「なら楽器を決めることから始めたらどうだろうか」

再度流れた沈黙を破ったのは新救世主聖川くんであった。

「よし、楽器決めよう、翔ちゃん王子!」
「そうだな」

聖川くんのナイス提案のおかげで翔ちゃんの少し尖ったアヒルのような唇も元に戻り、いつも通りの少しキリッとした凛々しくも可愛い顔になった。
翔ちゃんは音也と同い年であるのにしっかりしていて大人っぽいなと思っていたが、やはり少しは子供っぽさも残っているようだ。それに、何故か少し安心した自分がいた。

「翔はギター経験者だからギターだよね」
「おう、任せとけ!」
「聖川くんは?キーボード?」
「あぁ、ピアノが得意だからキーボードを任せてくれると嬉しい」
「じゃあ音也と莉子は何するんだ?」
「「ギター」」

次々と担当楽器が決まる中、翔ちゃんがぶつけてきた質問。それにハモるように同時に答える音也と私。
しかも、それが既に担当が存在する楽器であるのだから、直ぐに翔ちゃんの眉がぴくりと跳ねるのが分かった。

「ギター3人もいらねーよ!なんだよギター3人にキーボードって!」
「えー、でも俺もギターやりたい!」
「私もギターならちょっとだけ授業でやったことあるからギターがいいな」
「まぁ、ギターが3人もいれば、すげー迫力は出ると思うけど…」
「だろ?なら大丈夫だよ!」
「音也、お前なぁ…」

なんだかんだ、音也はその持ち前の明るさとマイペースさで人を丸め込むのが上手かった。いや、この場合、翔ちゃんが上手く丸め込まれてしまうタイプであると判断したほうがいいのかもしれない。バンド結成の時といい、今といい、翔ちゃんはなんだかんだ音也に弱い気がする。だが、そのおかげで私も音也も翔ちゃんもギターを担当することが出来たのだから、感謝しなくてはならない。…本当にこれでよかったのかは些か疑問に思うが。
これで漸くまたお菓子が食べれる。しかし、上機嫌でクッキーに手を伸ばした私は、次の言葉で再び教室に沈黙が流れるなんてことを予想することが出来なかった。

「なぁ」
「どうしたの?聖川くん」
「そういえば顧問は誰なんだ?」

先程まで救世主であった聖川くんは可愛らしい顔をして小さな爆弾を投下した。




そういえばいなかった、
(あぁ、またお菓子が食べられない)




12/05/31




「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -