青春とは人生の中で1度しかない、未熟だが若くて元気の溢れる時期の事をいうらしい。 そして、その時期に、私たちは、存在した。 僕らは青春スター 01 桜舞い散る春、新学期、新しいクラス、教室。 私は早乙女学園の『class B』と書かれたプレートが下がっている教室のドアを開けた。 階数が1つ下がっただけで教室の位置はほぼ去年と同じところにあった。教室内の構造もほぼ同じで、何の違和感も感じなかった。敢えてそれを上げるとするならば、窓から差し込む光が幾分和らいだという点であろうか。階が1つ下がるだけで、暑苦しい太陽の日差しが少し緩和されるものなら早く3年生になってしまいたいものだ。 教室内には既にほとんどの生徒が揃っていた。黒板に張り出されてある紙に従って自分の席へ移動する。 空いていた自分の席に鞄を置くと、隣には既に着席し、本を読んでいる見慣れた顔があった。 「おはよう、聖川くん」 「あぁ、おはよう」 「今年も同じクラスだね。よろしく」 「うむ、俺のほうこそよろしく頼む」 聖川くんは整った綺麗な顔を少し微笑ませた。うん、今日も聖川くんは可愛い。 隣の席に座る聖川真斗くんは去年も同じクラスであったクラスメートだ。 すらりと高い背に細い身体、長い手足。肌は雪のように白く、そんな肌に合わせるように色付かれた真っ青でサラサラな少し特徴的な髪の毛や海のように綺麗で深い青い瞳。その顔は端正で綺麗で、でも笑うと案外幼く可愛いのが印象的な男の子だった。かっこよく綺麗で頭も良く、優しく、大人しく、その上お坊っちゃまときたら、その辺の女子からキャーキャー言われるのは当たり前なわけで、彼は常日頃から影からこっそりと見つめる熱い視線を浴びながら生活している。しかし、その視線を気付かない辺り、少々抜けているところがあるのかもしれない。それもまた、彼の魅力であった。 そんな彼と去年も何度か偶然席が近かったこともあり、今では会話を話す程の関係になってしまった。 それを見た同級生の女子からはいいなぁいいなぁと羨まれるが、正直、私は聖川くんのことをファンだとかそういう目で見ていないので何とも思わなかった。 確かに、可愛い。女装したら絶対似合うんだろうなぁと思う程に可愛い。だが、それだけであった。 「……これってファンじゃん」 「…?どうした?星野」 「いや、何でもない」 聖川くんはきょとんとした表情で首を傾げた。 そう、そうなのだ。彼は寡黙で眉を潜めた怪訝そうな表情や堅い表情のイメージがあるのだが、笑った顔やこういうきょとんとした顔がまだまだあどけなくて可愛いのだ。 きっと小さい頃は嘸かし可愛かったのだろう。いや、今でも可愛いけど。 そう思いながら彼の顔を見ていると、教室のドアが勢い良くガラリッと開いた。そして、ほぼ同時に教室ないになだれ込んできた男が1人。 「莉子ー!なんで先に行っちゃうの?一緒に行きたかったのにー!」 それは一十木音也という男であった。 彼は足早に私の席まで来ると、そのまま床にしゃがみこんで机の上に腕と顎を乗せて私を見上げてきた。拗ねたように唇を尖らせながらこちらを見上げるその様はまるで子供、いや、最早犬のようだ。 「…音也、ここは2年のクラスだけど」 「うん、知ってるよ。でも莉子が先に行っちゃうんだもん!折角今日から一緒の学校だから俺楽しみにしてたのに!」 「寝坊した音也が悪い」 「えー!ちょっとくらい待っててくれてもいいじゃん!」 目の前でしょんぼりと尻尾と耳を垂れ下げている音也は私の1つ年下の幼馴染であった。 去年から学園の近くで一人暮らしを始めた私のマンションの隣に引っ越してくるというちゃっかりとした性格で、昔から本当に犬のように良く吠え、良く懐く、可愛いといえば可愛い幼馴染であった。 ただ1つのことを覗いては。 「…ってか莉子、この男誰?」 そう、音也は極度のヤキモチ妬きであった。 幼い頃から一緒に遊んだりしてきたせいか、それともよく家に遊びにきたり泊まりにきたりしたせいか、彼は異常なまでに私に懐いた。そして、そのまま成長してしまった結果が、これであった。 音也は隣に座る聖川くんを唇を尖らせながらじろじろと見つめる。聖川くんは困惑したように音也を見返していた。 「…音也こっち来て」 そんな幼馴染に呆れ、溜息を吐きながら彼の腕を引っ張り立ち上がらせた。 未だ不機嫌な顔の音也、状況が掴めず驚いた表情のままの聖川くん。あぁ、ごめんね、聖川くん。でもその顔、すごく可愛い。 廊下に引っ張り出してきた音也の表情は先程とは打って変わってにこにことした上機嫌であった。彼の言いそうな言葉は聞かずとも分かる。また馬鹿げたことを考えているに違いないのだ。いつから彼はこのようになってしまたのであろう。少なくとも、中学校へ上がる時までは至って普通の子であったのに。 「…ねぇ、音也。もう高校生なんだからさ、あんま懐かないでよ」 「懐く?何のこと?」 「変な独占欲沸かせんなってこと」 「無理だよ。だって俺莉子のこと独占したいもん」 「あのさぁ…」 「今もちゃんと独占出来たし。やっぱ莉子は俺と一緒がいいよね」 ニッと笑った音也の笑顔はある意味去年の教室に差し込む暑苦しい日差しよりも眩しく、そして頭を抱えるものであった。 内心「このシスコン野郎」なんて言葉が浮かんだけれど、声には出さない。なんだかんだ、口喧嘩のようなものをしても、いつも音也の妙な言い訳や屁理屈、そして、あの笑顔に負けてしまうのだ。この男は本当にあざとい。 「あ、それはそうとさ」 「なに?」 「もう俺ら高校生じゃん」 「うん」 「俺も一人暮らし始めたし、色々高校デビューっていうか、青春したいっていうか」 「うん?」 「だからさ、」 この音也の一言が、全ての始まりであった。 そして、この一言が、私の青春の始まりであることなど、今の私は知るはずもなかった。 バンドしようよ! (どうしてそうなった)12/05/09 |