いつもより饒舌な彼はきっと、
―怒らないで聞いてね。
ずっと思ってたんだけど、人が死ぬのは命を絶ったときじゃないと思うのね?
私が思うに"人が死ぬ瞬間"ってのは生前に関係のあった人から忘れられるときじゃないかなって。
だって、仮に命がなくなったってほかの人の心にその人が存在し続ける限りは生きてる、っていうでしょ?
だから本当の意味で人が死ぬのは、存在していたってことを忘れられたときだと考えてるんだけど。
それを踏まえてさ、もし、もしもね。
私が死んじゃったら、貴方だけでいいから絶対に忘れないでほしいの。
約束、してくれる?―
――――ああ、何でこんなことを思い出すんだろう。
あんな"約束"のことなんて。
昨日のことなのに、ずいぶん昔のことのように感じるよ。
確か…あぁ、そうだ。
久しぶりに一緒にお茶でも飲もう、ってリヴァイを部屋に誘ったんだっけ。
それで、ふとこの話をしたんだ。
リヴァイの奴、聞き終わったとたん鼻で笑いやがって…本当にムカついたな。
―アホか、お前は。
―な…こんなシリアスっぽい話聞いてからの第一声がそれはどうかと思うよ。
―アホをアホと言って何が悪い、アホ。
―ちょ、連発しないでよ!
―てめえがくだらねぇ話するからだろうが。
―くだらなくないし!あのねぇ、人類最強と謳われるリヴァイ兵長様は心配してないのかもしれないけど、心臓を捧げたとはいえ私みたいな一兵士は壁外調査を明日に控えているとなると、すっごく不安になるの!
―そんなむきになるんじゃねえ。
―リヴァイがくだらないとか言うのが悪いんだよ。
―くだらないってのはそういう意味じゃなくてだな…。
―じゃあ何さ。
―例えお前…シェリルが死んだとして、俺がお前を忘れるわけねぇだろ。意味の分からんくだらねぇ約束こぎつけようとすんなって意味だ。
―え、
―だいたい、ここまで土足で俺ん中入ってきた奴はそうそういねぇからな。忘れられるわけねぇよ。
―…。
―だから、そんな約束しようとすんな。お前が死ぬのなんて考えたくもねぇ。
―…リヴァイ、
―あ?
―…ずいぶんと饒舌だね。
―アホ。俺は元々よく喋るんだよ。
何が"よく喋る"だよ。
絶対あんまり話すほうではないくせに。
でもね、今なら分かるんだよ。
何で、あんなに饒舌だったか。
15m級の巨人を見上げ、もうすでに折れてしまった刃を掲げた。
巨人にねっとりと見下ろされるのはあまり気分が良くないけれど。
最後に頭にいるのが、あなたで良かったって、心から思うの。
できれば最後の最期まで、頭の中をあなたでいっぱいにしたいから、もうそろそろ目をつぶってしまおう。
いつもより饒舌な彼はきっと、
翌日の壁外調査で私が死ぬことを悟っていたに違いない。