そこにいる全ての人がその男を前に、頭を下げる。誰もが羨望と尊敬、ときには畏怖の篭った視線を彼へと向けた。 此処は言わずと知れた株式会社SHOWYOU。 しかしながら収集癖のある社長はほとんど不在。この国の電気製品のシェア上位に君臨するこの会社は専務である毛利の城と言っても過言ではない。 「志道、本日は例の会合がある。わかっておろうな。」 「はい、元就様。準備は滞り無く進んでおります。」 「駒を呼べ。」 感情の篭らない声に、秘書は頭を下げ部屋を出た。 毛利はそちらへ視線を向けずにいつものデスクへと向かった。今夜の会合は己が野望を達成させる際、有利に事を進めるためのキーポイントだ。 「入れ。」 「し、失礼いたします…!…ご、ご報告をしに参りました…ッ!!」 浮かぶのは怯え。 毛利は無駄を好まないが故に使えぬ者は即刻切るのだから、そうなっても仕方がない。彼は恐れられていた。 「何をしておる、早う始めよ。」 「…、はははい…!!」 返事をしたものの報告は一向に始まろうとしない。 「もしや貴様、出来ておらぬのか。」 ちらりと目線を向けられ、駒と呼ばれた社員は小さく悲鳴を上げた。 「我は二日でこなせと申したはずぞ。…志道、宍戸…連れていけ。」 毛利はあからさまに舌打ちした。 まあよい、我が策は如何様にも転ぶ。 * 「元就様、本日の会合が中止となりました。先方の都合が悪くなったようです。如何致しますか。」 「…無能如きが我との会合を断るだと…?…まあよい、世襲で地位を得た金と権力の亡者に用はない。」 毛利は一切の表情を浮かべることなくそう答える。 「…貴様、何を笑っておる。」 「ふふふ、いえ…貴方さまも十分…、しかし出過ぎたことを申しました。」 「よいわ、我には関係の無いことよ。…今宵は、新入社員歓迎パーティーとやらがあったな。」 「はい。」 「出席する、挨拶の場を設けよ。…少しはましな駒が居れば良いのだが。」 「ええ、素敵な方が見つかると良いですね。」 パーティーまではまだ時間がある。その間は残りの仕事を片付けることにして、毛利はニヤリと笑った。 |