隣を歩いているイケメンがつまらない自慢をペラペラと語ってるが私の耳は右から左へと聞き流している
ぬぐい切れないリアル過ぎる感覚と違和感が胸の辺りをさわさわさせる。
先程までいた学校独特の懐かしい匂いや触れた机の冷たさ、座っていた椅子の感覚。歩いているなまえの頬を撫でる生暖かい風や歩くたびに伝わる筋肉の動き、体へ感じる重力たちそれぞれがゾッとするくらいリアルだった。
考えれば考えるほど夢だという選択肢は遠のいていく
「聞いてる?」
「私もたこ焼き好きだよ」
「は?そんな話ししてねぇし」
「あ、ごめん」
「....まあいいか、お前はどうせなにも知らないで俺様に食べられるんだからな」
「え?」
爽やかイケメンくんの口調や声色がおどろおどろしいものへ変わりギラついた目とバリバリとちぎれる衣服、爽やかイケメンだった彼は液晶の中でしか見たことのない怪人と呼ぶに相応しい姿へと急変した。
なまえの足が小さくカタカタと震えはじめる
「お前をこの世界に寄越して良かったよ。こんなにうまそうだしな」
聞き捨てならない科白になまえは気力で顔を上げる
「せ、世界って何...?」
「お前で5人目だよ。こうもうまくいくならもっと前からやりゃ良かったぜ」
いつの間に来ていたのかさえわからない路地裏に下卑た笑い声が響いていく、危険だと脳は警報を鳴らすが震える体は動いてくれない
「ここには人がこねぇからなぁ?」
「なん、で」
なまえからポロリと転げ落ちた弱々しい言葉に怪人は気を良くしたのか冥土の土産に教えてやるよと語り始める
俺様の能力が似た世界から次元を超えて連れ込んでこれるんだとかなんとか、幻覚が使えるんだとかなんだとかちんぷんかんぷんな言葉を処理仕切れず目前に迫った恐怖、受け入れきれない死からギュッと目を瞑る
「怖気づいたか。んじゃ、いただきまあぐぎゃああ」
断末魔が耳を劈いて生暖かい何かが勢いよく上から降りかかる
「またワンパンで終わっちまったよ...お前大丈夫か?」
初めて耳にする声色とともに肩に軽い衝撃、伝わる暖かさからそろりと目を開けた
神々しく輝いた肌色が視界に入ってきた
「大丈夫か?」
「あ、ごめんなさい。大丈夫です」
赤い手袋に全身の黄色、ひらひらと目の前で揺れる白いマント、これは相当な不審者だと場違いなことを考えてしまった
「じゃあ大丈夫だな、気をつけて帰れよー」
背を向け手をヒラヒラと振りながら歩く後ろ姿が子供の頃に憧れたヒーローに見えた
ヒーローなら、私の事を、今を、全てを助けてくれるんじゃないかと脳が弾き出して震える身体に叱咤を入れ私は全運動神経をフルに動かし勢いのままに駆け寄り、縋り付いた
「うわっ」
「あ!あの!あの、助けてください!貴方ヒーローですか?助けてください!助けて、助けてください!たす、助け、...助けてください....」
後半はもう言葉になってない、死の恐怖から生への安堵、今への恐怖などのたくさんの感情がぐちゃぐちゃでマントにしがみついてすがり、泣きつく
切羽詰まった私は頼りたくなる後ろ姿となびくマントに見捨てられたくないの一心だった
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