じりりりり、と目覚ましが鳴った事によってなまえは微睡から現実へ引っ張られ、音の発生源を手探り止める
ボーッとする頭で周りを見渡すと知らない風景を目に留めてたっぷり時間をかけ、昨日の出来事を思い出した
夢じゃなかった、と絶望が少し混じった声色がこぼれる
どれくらいの時間なのかわからない
長いようでもあり短いようでもある時間が経った頃に止めた目覚ましがスヌーズ機能なのかけたたましい音を奏でる
放心していたなまえは音によって残酷な現実に引き戻される
気を引き締めるようにパシンと両手で頬を叩き、しっかりと目覚まし時計を止めた
もう一度頬を叩きパシンと乾いた音が部屋に溶け込むと、なまえは起き上がり布団を畳んでテーブルを部屋の中央へ移動させた
悩んでても仕方ない
頑張ろうと自分を奮起させて、朝食を作るために台所へ移動する
勝手に冷蔵庫を開ける事に気が引けたがそれも一瞬で家主は気にしないであろうと判断を下し、オープンの言葉とともにドアを開く
一人暮らしの25歳男性にしては充実した食材に自分の家の冷蔵庫の中身と比べて落ち込んだ
私も一人暮らしをしていたが自分に料理をする面倒くささと虚しさが嫌でコンビニやスーパーなどの弁当や外で済ませていたのだ
決して、料理ができないわけではないと誰かに弁明を独言て材料を取り出した
んがっ、自分のいびきで起床したサイタマは廊下で寝ている事に一瞬の戸惑いを見せたがすぐになまえを思い出した。
あぁ〜と盛大な欠伸をした後に無造作に敷いた毛布を持ち上げ廊下から部屋へと入る
「なんかいい匂いすんな」
ドアを開くと久しく嗅いでいない出汁の香りがサイタマの鼻を掠る
「サイタマくんおはよー」
「はよう」
「勝手に冷蔵庫の中使ったけどいいよね」
「ああ」
部屋の隅に畳んで寄せてある布団と、中央に置かれたテーブル
雑多に置いてあった雑誌や本は片付けられていて、少し散らかっていたゴミはきれいに袋にまとめられていた。
自分の定位置に座りテーブルに肘をつき顔を支えて気の抜いた態度で台所にいるなまえを見つめる
広くない台所をてきぱきと動きまわる彼女を見ていると寝る前に余計な自分のパーソナル的な何かを心配し、人と暮らしていけるかを不安に思った自分を殴りたい衝動に駆られた
そんな心配は皆無だ。
まだ少ない時間でなまえがいる生活が当たり前のようで、そしていいものだと思っているサイタマである
「できたよー」
サイタマはなまえの声で考えていたことをやめ、食欲を刺激する香りを受け取りに腰を上げた
テーブルに並んだのはキノコの味噌汁に白米と魚に卵焼き、日本人の朝食を体現したかのようなラインナップは料理をするとはいえ、朝から作ることはなく心が躍る
両手を合わせていただきますと声が揃う
「勝手に作ってごめんね」
「いや、助かる」
「ならよかった。」
ホッと小さく息を吐いた後、すぐに口に合うといいんだけどと不安げな顔を見せこちらを見つめるなまえを横目に味噌汁を箸で軽くかき混ぜ一口啜る
「うめえよ」
「本当?」
「ああ」
「よかったぁ〜」
なまえの口元が綻び、サイタマに続いて料理へと手をつけた
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