『ケロリちゃんやっぱり私には無理だ…』
「案外良いことあるかもよ?」
『玉砕する覚悟も出ないよー…。辛いー。』
「そうかしら?私にはそう見えないけど?」
『そう思えないよ…はぁ…』


教室のすみっこでの秘密のガールズトーク。隣にはケロリちゃん。私は話題にしていた彼をこっそり盗み見る。その視線の先には、同じクラスのプルソン君。


「早くしないと誰かに取られるわよ」
『そ…それはヤダ!』
「じゃあさっさと告白する事ね」


アイスブルーの綺麗な目線がジロリと突き刺さる。その眼差しは私の煮え切らない片思いに喝を入れてるようだった。


「もう魔インで言えば良いじゃない。」
『……グループ魔インでしか喋ったことない。』
「えっ!?まだ聞いてなかったの!?」
『だ…だってなんかタイミング逃しちゃって…音楽祭のあとバタバタしてたし…』
「私が教えて貰うように言う?」
『大丈夫です!!』


私は早く行動しなくちゃって焦っていたけど、中々告白する勇気が出なくて今日のようにケロリちゃんにずっとうじうじ燻る想いを話しているだけだった。
分かってるのだ。音楽祭でプルソン君に惚れた悪魔はきっと多い。私もそのうちの一人だけども。

みんなの注目を集めてるアブノーマルクラスに対する賞賛は鳴り止まなくて、音楽祭後はどこもかしこもプルソン君への熱視線と期待値だらけだった。
せめてもの救いはプルソン君があまりクラス外では姿を現さないって事だけど気は抜けない。


「じゃあラブレターでも書いたら?」


どう告白しようかやきもきしていた中、ケロリちゃんから投げかけられた言葉に私はハッと顔を上げる。彼女にとってはなんて事ない提案だったかもしれない。でも私にはそれが救いかのように思えた。


『ケロリちゃん…!それだ…!!』


それだ!それだよ!音楽祭でイルマ君がエリザちゃんに渡してたラブレター、私はそれがとても素敵に輝いて見えた。あのラブレターにはどんな事が書かれてたんだろう。
好きなヒトへの言葉をインクに込めて、文字に乗せて。なんてロマンチックなんだろう!

私は早速放課後マジカルストリートでラブレターにぴったりなレターセットを買った。音符とハートが可愛くて、ゴールドのラインがキラキラしてるもの。あの時の音楽と同じような。




そしてその日から私は文字に頭を悩ませられる事になる。意気込んで書こうとしたのは良いけど想いを文字に書き出すって思ったより難しい。そりゃそうだよ文章なんて小学校の感想文でしか書いた事ないよ私。思い返せば国語の成績良くなかったな。
それに普段のMAINの返事とかも短文とかスタンプの応酬だから語彙力無さすぎて『好きです』の四文字しか出てこなかった。


それでもどうにか読み応えのあるラブレターを作りたくって私は夜な夜な考えていた。私がいかにプルソンくんを好きな事とか、プルソンくんのここに惚れたのだとか、音楽祭、楽しかったねって事とか。それをどうにか言葉にしたくて一生懸命考えた。
これを読んだプルソンくんが思わず私に惚れてしまいそうな壮大なやつ。ドキドキして夜も眠れなくなる最高傑作作りたい。


そうしてずっと頭を悩ませているうちにラブレターを書き始めてから一週間も経ってしまった。
ケロリちゃんからは毎日進行状況を聞かれている。
その度に『あと少しで…』と答えるのだけどとても呆れたような表情を返される。

私だって分かってる。時間がかかりすぎてるって事。手書きで書いてるから綺麗な字が書けなかったり、間違えちゃったりして何度もやり直しをしていた。もうすっかり便箋は残り少なくなっていた。


そんな私に溜息混じりでケロリちゃんは切り出した。
「さっき食堂で聞いたんだけど、Aクラスの子がプルソン君に告白しようかなとか言ってたわよ。」
『え!?』
「早くしないとほんとに取られちゃうかもね。」


ヤバい。事態は思ったより深刻だ。焦る私に「で、いつまでに仕上げるの」とケロリちゃんは畳み掛けてきたので今日中には仕上げますと宣言しといた。

宣言したは良いものの、今日中に仕上げるにはもう授業時間も使うしかなかった。今からの授業は一番後ろの席を確保できたし隣はエリザちゃんだからこっそり書き上げてしまおう。前の席はサブノック君だからきっと教卓からは死角になるはず。
「そこだと黒板が見えぬだろう。席を代わるか?」とサブノック君は言ってくれたけどむしろこのままだと助かる。
『いいの。サブノック君今日は私の盾になってね。』ってこっそり耳打ちしといたら、あんまり意味は分かってないようだったけど「よく分からぬが己に任せろ!」と元気な返事が返ってきた。サブノック君頼もしい。ありがとう。



授業中、私はかつて無いほど集中していた。もちろんラブレターを書くために。丁寧に丁寧に、綺麗な字を便箋にのせて。これならなんとか今日中までにいけそう!
これを渡した時のプルソン君の顔が楽しみで妄想が膨らむ。その先の事を考えすぎてドキドキが鳴り止まない。放課後夕方の光に包まれてラブレター渡しちゃうなんて絶対ロマンチック!ってずっと自分の中ではしゃいでた。
そう、私はその事に夢中すぎて周りの声もエリザちゃんの聴こえてなかったらしい。


「ナマエちゃん…!!」
『ん?』

エリザちゃんに肩をたたかれ、ようやく何か静かな雰囲気を察した。
そして指差された斜め前を見上げると、そこには背景に暗黒を携えたカルエゴ先生が立っていた。


『せ…先生…』
「ミョウジ」
『はい』
「宿題6倍だ」
『そんなあ…』
「そして放課後居残りだ」
『ちょっとメモに夢中になってただけなんです…』
「ほう?なら先程隠した物を見せてみろ」
『それだけは勘弁してください』


周りからはあちゃ〜とかやっちまったな!みたいな目線が注がれていた。その中には好きな彼の視線もあるだろう。大好きな彼は消えてこちらから見えなくなってたのだけが救いだった。プルソンくんから同情の表情されてたら恥ずかしさで死ねる。
有無を言わず私は素直に罰を受けることにした。完全に私が悪いけど。



「あだ名〜大丈夫だよ〜。私もねー、反省文書かされたけど夕方までには終わったよー」
『クララ〜〜〜!!!』

打ちのめされた私を見かねてクララは肩をポンポンし、頑張って!と応援してくれた。優しさが身に染みて泣きそうだった。
それに合わせてみんな「頑張れ〜!また明日な〜!」と言葉をかけられながら代わる代わる肩ポンでみんなに励まされた。みんな優しい。プルソン君は結局最後まで姿が見えなかった。こんな情けない姿見られたく無いので良かった。
そして誰も居なくなった教室で私はチョークを持って黒板と向かい合う。
早く終わらせて、今日中にラブレターを仕上げるんだ。


『教師を敬い…クラスメイトを大事に…悪魔はみんなのために…みんなは悪魔のために………お…終わった…!!!つ…疲れた…腕が……!!』

なんとか反省文を終わらせる事ができたけど、もう夕陽に差し掛かる時間になってたし腕はプルップルだった。集中してたからかいつものトランペットの音も聞こえなくて、時刻はもう5時を過ぎていた。え、待って時間全然足りなくない?教室閉められる時間まであと僅かしかない。
バキバキになった身体のままなんとか机に座ったけど疲労した手にはピキッと地味な痺れが滲む。


『ぜ…全然書けない…』


背伸びして書いてたから手も腕も脚も痛すぎる。なんだか悲しくなった私はため息をついて、残り少なくなったまっさらな便箋に"好きです"の文字をしたためる。
好き。プルソン君、大好き。アブノーマルクラスでほんとに良かったって思ったの、プルソン君のおかげでもあるんだよ。こんなに想ってるのに私は手紙一つ書けないなんて。手痛ったいのと自分への情けなさで思わず机に突っ伏した。


『はあ…プルソン君…好き…。』


私の小さな告白は、誰にも伝わる事なく静かな教室に消えてったと思っていた。


「それ、本当?」


ガバッと顔を上げると、目の前にその、私が口にした本人がすうっと目の前に現れたのだ。揺らめく煙がはっきりとした姿に変わり、彼は私の目の前に姿をあらわした。

『えっ………えええ!?』

う…うそ!!!

『い、居たの!?』
「うん…ずっと……」
『な…なんで残ってたの…!』
「ケロリさんに、"放課後教室に居たら面白いものが見れるわよ"って言われて…」

ケロリちゃん!なんてことを!一瞬ケロリちゃんを恨めしく思った。プルソン君も、女子のプライベートは覗かないって言ってたくせに!ああっでもこうでもしないと進めないだろうし、でもっ…!こんないきなりなんて!

心の準備ができないまま、頭の中でぐるぐるどうしようって気持ちが回る。
思わずな登場に『えっと…』と何か言葉を続けたいのに、緊張して全然言葉が出てこない。この微妙な間と沈黙が辛い。辛すぎる!私は眼にじわじわ涙が滲んでいくのを感じた。

そんな私をプルソン君が見据えて、「あの…」と小さく溢した。私は顔を上げて、プルソン君を見る。
プルソンくんは、少しだけ目を泳がせて、その後パチっとはっきり目が合った。真剣な眼差しに息を呑んだ。心臓が跳ねて、鼓動が早くなる。混じり合った視線の間で、少し空気が揺らめいた気がした。お互いがコクリとゆっくり息を飲み込んだ。そしてプルソン君は、書きかけのラブレターの"好きです"の文字をなぞるように指した。

「その……………僕も…好き、です」

プルソン君が伝えたその告白に驚いて、私は思わず眼を見開いた。言い切ったプルソンくんは顔が赤くなってて、私の顔も、沸騰するんじゃないかってぐらい熱くて。心臓はギュウウって昂るし。
ええっと、もう分かってるだろうし全部バレバレなんだけど、さ。

『わっ………私もっ、好きです!!!』





 
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