朝です!三成くん
「三成くん〜〜〜!」
登校したての朝、階段を登りきった廊下の端からわたしは彼の姿を見つけて叫んだ。
遠く離れた1組の教室にちょうど入ろうとしていた三成くんは思い切り顔をしかめ、そのまま足を止めずに教室に入ると思い切り音を立てて扉を閉めた。
「ひどい…私たちもしかしたら今日にも付き合うかもしれないのに…」
「天地がひっくり返ったとしてもそれはないだろうて」
私のつぶやきを思いっきり否定したのは後ろにいつの間にか立っていた吉継だった。
「なんで!?華の女子高生がこんなに、こんなに!アタックしてるのに!」
思わず私がそう言いながら吉継の腕にすがりつこうとすると、吉継はするりと私の手から逃れて「ヒヒ」と笑い声を残したまま教室へと向かった。
「なんでなのよ〜〜〜!!!」
私の叫びを受け止めてくれる人はもはやいなくなり、朝礼が始まるチャイムが虚しく鳴るだけだった。
・・・
私は三成くんが好きだ。すごく好きだ。
一年前に入学した時に、あの一糸乱れぬような銀色の髪と、見た目通りクールで硬派な感じに一目惚れした。
「付き合ってください!ついでに、名前教えてください!」
と初対面の彼の前に滑り込んだ出会いからもうちょうど一年経つのかと思うと、とても感慨深い。
その時は「戯言を。邪魔だ。」という一言であっけなく袖にされたけれど、あれから出会うたびに告白を繰り返している。
そうしているうちに彼の幼馴染である吉継になぜか気に入られ、友達と言っていいのかはわからないけれどときおり話すようになった。
彼の名前を教えてくれたのも吉継だ。
三成。彼の名前を初めて知った時、二度目の運命を感じた。
とても素敵だ。やっぱり私は彼が好きだ。
・・・
「三成くん何してるのかなあ」
私が前田先生の授業中にそう呟くと、前の席の佐助が手紙を回してきた。
《窓の外》
それだけ書かれた紙を見た途端バッと窓の外を覗くと、そこには体操服を着てボールを追いかける三成くんがいた。
そうだ、忘れてた。
時間割変更のおかげで今日はこの時間に三成くんの体育姿が拝めるんだった。
いつもはこの時間に化学室に行かなければいけないため、いつも泣く泣く彼の勇姿を見るのを諦めていたのだ。
「なんであんな芋ジャージ着ててもかっこいいの…?」
そう言いながら佐助の背中を揺さぶると、佐助は一瞬振り返って私の頭をはたいた。
《や・め・ろ》と口パクで言われても、私のときめきは止められない。
途中で誰かと交代しグラウンドのベンチに座っている時でさえ、背筋をピシッと伸ばした彼がたまらなく素敵だ。
一瞬でいいからこっちを見てくれないかな。
想念を込めて見つめた瞬間、水分補給してる彼がパチリとこちらを見た。
またたくまに頬が熱くなって、私は思わず身を乗り出すようにして三成くんを見つめた。
私だってわかってるのかな?三成くんが顔をしかめたりせず私にこんなに長い間(と言ってもたった数秒だ)目を向けるのは初めてだ。
しかしそれもすぐ終わってしまい、彼は眉を軽くあげてそのまま目を逸らしてしまった。
めげずに夢中になって見つめる私の前で、無防備に喉を上下してペットボトルの水を飲む彼はどこか色っぽくて、またときめきが止まらない。
見つめ合った余韻が思いの外続き、私は彼が着替えのために早めに校舎の中に入ったのにも構わずぼうっと外を見つめていた。
「コラ、ナマエ!石田を見つめるのもいいけど、授業に集中しろよ〜」
前田先生に丸めた教科書で叩かれるまで。