私は先ほどまで天井裏から覗いていた城の高いところに小太郎ちゃんともども連れていかれて、豪華な部屋に座らされた。小太郎ちゃんは警戒しながらも成り行きを見守っているようだった。
しばらく待っていると、さっきの男と驚くほど大柄な人が出てきた。
「本当にナマエなのか」
大柄な人は目を見開いて私を見つめていて、私はこくりと頷くことしかできなかった。すると大柄な人は私に駆け寄るようにして近づき、突然私を引き寄せ抱きしめた。肩が濡れたような気がするのは、その人が泣いているからのようだった。
「あ、あの」
「ようやく…ようやく会えたのだな」
助けを求めるために小太郎ちゃんを見ると、小太郎ちゃんはなんだかかなしそうな目をして私を見つめていた。なんだかそれは私との別れを覚悟しているように感じてしまったので、私は思わず小太郎ちゃんに向かって首を横に振った。
「あの、…どちら様でしょうか」
とりあえずその人にそう言うと、大柄な人は悲しそうに私を見つめたけど、無理もないと言って上座に戻った。
私は小太郎ちゃんの横にぴったりと座り、手を握る。なんだかこの人の話を聞いたら、小太郎ちゃんがいなくなってしまうような気がしたのだ。
「我はおまえ…ナマエの父親だ。そして、おまえを産んだ母親は、この半兵衛である。」
「え」
突然の、両親との再開である。私が固まってしまったのも無理はないと思う。しかも、相手は天下人と名高い豊臣秀吉だ。何かの間違いじゃないかと思うけれど、目の前の二人は自信に満ちている。
いやちょっと待て、その前に、
「半兵衛さん…、って女なんですか?」
母親ってことはそういうこと?男にしか見えないし体つきも男だ。男にしか見えない。
「いや、立派な男だよ」
半兵衛さんがそう答えた。
目を白黒させる私に二人が説明してくれた話によると、豊臣秀吉と竹中半兵衛は恋仲にあったけれど同性同士ということによりいろいろと障害があった。ある日二人の前に法師が現れ、同性でも子供を成すことができるという薬を提示する。半信半疑だったが試しに使ったところ、本当に子どもができてしまったらしい。
しかし、産んだのは豊臣秀吉の正室ではなく家臣で男である竹中半兵衛。生まれてきた女の子の待遇をどうするか悩みながらも二人の間に生まれた一人娘として慈しみ育てていたところ、豊臣秀吉の嫡男として勘違いで誘拐され行方不明になり、存在を隠していたため大っぴらに探すことはできず今まで秘密裏に探していた子どもが、私だというのである。
にわかに信じがたい話ではあるものの、二人がわたしに向ける表情やなんとなく懐かしさを感じるこのお城の空気が、私に受け入れざるを得ないと思わせた。
私はちらりと小太郎ちゃんを見た。小太郎は私を見ない。小太郎ちゃんは知っていたの?そう問いかけたかったけれど、なぜか聞けなかった。
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