物心ついた時には、私は“男の子”だった。
幼い頃、綺麗な赤い着物を着て誰かと手を繋ぎ笑いあっていたおぼろげな記憶があるけれど、それは年を追うごとに薄れてしまってきている。
「小太郎ちゃん、今日はどこに行くの?」
私は5歳の時に、生みの親のところから誘拐されたらしい。そして、利用価値がなくなったのかあっけなく捨てられたところを、小太郎ちゃんが拾ってくれた。それ以来私はずっと小太郎ちゃんのもとで育てられ、身の安全のためと勧められ男の子と偽って暮らしている。
育ててくれた小太郎ちゃんはすごく忙しい人で、私はこの5年間ずっと移動しっぱなしである。たまにいろんな人のところに預けられたりした。伊達政宗さん、武田信玄さん、上杉謙信さん…挙げ始めればキリがないけれど、みんな可愛がってくれて、色んな技や兵法を教えてくれた。小太郎ちゃんからは忍術を。
だから人並み以上には強い自信がある。
「………」
問いかけた私に対し、小太郎ちゃんは無言でサラサラと半紙に大阪、と書く。
出会ってから一度も小太郎ちゃんの声を聞いた事がないけれど、最近では私は小太郎ちゃんの表情や手振りで、感情や言いたい事が分かるようになってきた。なんだか嬉しい。
「そっか、私も手伝ってもいい?」
最近私は小太郎ちゃんの仕事を手伝ったりする。いつまでも小太郎ちゃんにばかりお世話になっちゃいけないと思うし、何より私が小太郎ちゃんの役に立ちたい。小太郎ちゃんは最初は渋っていたけれど、私が説得するうちに、渋々ながら連れて行ってくれるようになった。
しかし今回はなんだかいつもより頑なに連れて行こうとしない。よっぽど危険なんだろうか、と心配性な小太郎ちゃんに対して思いながらも、なんだか私も意地でしばらく無言の攻防のなか、小太郎ちゃんが折れてくれた。
←BACK→