三成くんにもらったかんざしは、他の女物の着物と一緒にしまい込む気になれず、机の上に飾っておいた。
朝三成くんが訪ねてくるたびにそれを見てなんとも言えない、気恥ずかしげに嬉しそうな顔をするので、私もついつい笑顔になってしまう。
「やれ、賢人殿の息子君(むすこぎみ)は、つくづく三成に甘い」
そんな私たちを見た吉継くんは、呆れたように笑いをこぼしながらそう言う。
「君たちの元服も、明日に迫ってきたね」
そう声をかけると、三成くんは平伏し、吉継くんもかしこまったように座り直した。
「ナマエ様のお手を煩わせてしまい、申し訳ございません!しかし、ナマエ様直々に元服の儀を取り仕切っていただけること、誠に感謝しております!」
「世話をかけておるな、ナマエよ」
二人の正反対の返しに思わず笑みがこぼれるけれど、なんとなく寂しい気もするのだ。
元服したらこれからは一人前の武士として、二人とも今まで通り無邪気に過ごすことはできないだろう。
戦にも出なければならないだろうし…と考えると目頭が熱くなる。
「二人とも、戦の時は僕の後ろにいるんだよ…」
「賢人殿と顔は似ておるのに、言うことはまるで違うのがまことおかしいものよ。ヒヒッ」
確かに、兵の前に立つ半兵衛さんは一言で表すと行き過ぎたサド、である。
「何を申すか!半兵衛様はナマエ様と瓜二つで、まるで菩薩のようなお方だ!」
………あのズレにズレまくった生みの親とそっくりと言われると、それはそれで複雑ではある。
また吉継くんが三成くんをからかいはじめる姿勢を見せたため、こらこらとなだめて二人を鍛錬へと送り出した。
「三成くんも吉継くんも明日からは正式に一人前の男になるんだから、そうやって喧嘩するのもほどほどにしなさい」
「やれ、われもかんざしを挿せば一人前の男とやらになるであろ」
「貴様……!!ナマエ様を愚弄するか!!」
いつも通り騒がしい日常が愛しい。
喧嘩(と言うより一方的に三成くんがからかわれてるだけ)を始める二人の背中を見つめながら、私は幸せを感じていた。
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