私付きの小姓となった三成くんの日常は、対して今までと変わらなかった。ただ私の部屋での座学が増え、そしてそこに吉継くんが加わっただけである。
半兵衛さんの前ではしおらしく(しているように見えた)吉継くんだったけれど、三成くんと私の前になるといつもの調子を取り戻したかのように面白がって軽口を叩く。
私の前でのそんな吉継くんの態度が気に入らないのか最初は勢いよくたしなめていた三成くんだったけれど、日を追うごとに諦めていくのが面白くて、私はまあまあと軽く止めることしかしなかった。
「やれ、ナマエよ、書き損じておるぞ」
最初はナマエ様やらナマエ殿やら呼んでいた吉継くんも慣れてくると私が勧めたこともありナマエと呼び始めた。
それも三成くんが気に入らない一因だけれど、本当は三成くんにもそう呼ぶよう何度か言っているのだ。
しかし真面目一徹、思い込んだら一直線の三成くんはそれを言うたび平伏し「滅相もございません!」と天井裏が定位置になっている小太郎ちゃんが思わず飛び上がってしまうほどの声を上げてしまう。
「ナマエ様を呼び捨てにするなど…、あってはならぬことだ」
と今日も三成ちゃんは飽きずにたしなめるけれど、吉継くんは素知らぬ顔をしてさらさらと兵書を書き写すのみだ。
私はこのかわいい二人と過ごす時間が、小太郎ちゃんと過ごす時間と同じくらい、愛おしくなって来ていたのだった。
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