13 大谷吉継

三成くんが来た時と同じように元気よく私の部屋から出て行くと、いつの間に来たのやら小太郎ちゃんが天井からとすっと軽い音を立てて私の隣に着地した。

小太郎ちゃんが生ぬるい目で見つめてくるのでなんなの!と軽く睨んだふりをすると、どうやら弟ができたようで喜んでいることがバレていたらしい。

すっかりお姉さんの顔だな、と言いたげな小太郎ちゃんの膝を軽くぺしんと叩くと、私は机に向かった。
天下統一に向かう豊臣は、少しの時間でも惜しいほど忙しいのだ。

そんな私を見つめる小太郎ちゃんの目は心配げだ。最近は豊臣の拡大に向けた仕事をいくつか小太郎ちゃんに頼んでしまっている。
お給金は半兵衛さんが出してくれているようだけれど、小太郎ちゃんが無茶をしないか私だって心配だ。究極の無口な分、誤解されることも多いから。

そんな思案をしながら切れた墨を磨っていると、障子の前に気配を感じた。小太郎ちゃんは静かに天井へと身を隠す。

「ナマエ、少しいいかい」

聞き慣れた声に、慌てて障子を開けに行くとそこに立っていたのは予想通り半兵衛さんだった。

「父上、お呼びいただければ参上いたしましたのに」

部屋の外だったため二人きりの時に求められている女子口調は封印し、外行きの声で答えると半兵衛さんは笑って小さく首を振った。そのまま、大した用じゃないんだ、と言いながら後ろに控えている少年に「おいで」と声をかける。

そこにいたのは顔を白い布で隠した、まだ線の細い少年だった。「…こちらは?」と半兵衛さんに問うと、まあまあと部屋に入ることを促される。

「ほら。挨拶して」

半兵衛さんがその少年に声をかけると、彼はその線の細さからは想像できなかったしっかりした、しかしどこか面白がっているような声を上げた。

「大谷吉継と申しまする。」

聞いたことがあるような…と記憶をたどっていると、だんだん遠くから聞き慣れた足音がすごい勢いで近づいてくるのが聞こえた。

「ナマエ様!!入室の許可を!!!」

もちろん、三成くんである。私の代わりに半兵衛さんが「いいよ」と答えると、三成くんは半兵衛さんに恐れ入ったのかいつもよりはゆっくりと障子を開け、しかし勢いよく頭をついて半兵衛さんに向かって言った。

「半兵衛様、吉継を罰するのであればお待ちくださいませ、訳があるのです」

展開についていけずただ見守るばかりの私だったけれど、なんだか込み入った事情があるようだ。
しかし半兵衛さんはころころと笑って、「罰するなんて物騒なことはしないよ」といつも通りの声色で言った。

いつもよりいくぶん人口密度の高くなった部屋に、私は今日中に書類を終わらせるのを早々に諦めるのだった。


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