11 忠犬誕生

豊臣に来てから一年が経った。

何度か戦があったけれど私は行かせてもらえず、ただ鍛錬を重ねるばかりだったけれど、炎の婆娑羅も使いこなせるようになりますます周りからの評価は“竹中ナマエ”を偶像化してしまっているように思える。

最近日課になったことが一つある。それは。

「ナマエ様ァァァァア!!!」

遠くから聞こえていたはずの声は瞬く間に私の部屋の前で膝をつき、嬉々として私に声を掛ける。

「ナマエ様!どうか私に入室する許可を!」

私が視察先の寺で出会った三成くんの、モーニングコール…もとい早朝ご機嫌伺いである。

「いいよ、入っておいで」

年を重ねるごとに誤魔化しきれなくなりそうな少し高めの声を、半兵衛さんにあやかって一人称を僕にすることで誤魔化している(つもり)だけれど、朝っぱらは油断していて高い声が出る。

そんな私の声を鶯が囀るようです!と感極まった声で歯の浮くような台詞を並べる三成くん。どこで教育を間違えたかな…と回想するけれど、思い出すのは目を覚ますなり私を拝み始めた引き取って間もない三成くんの姿だった。
危機から救った私を菩薩か何かだと勘違いしたらしく、それはすぐに半兵衛さんや秀吉様、小太郎ちゃん、そして城内の者に知れ渡り、秀吉様付近には微笑ましい笑い話に、城内の者たちの間では、私のささやかな武勇伝となってしまった。
あああの頃からか、私の教育以前の問題だなあと遠い目をしていると、まだあどけない表情の三成くんが私を上目遣いで見上げてくる。うっ、可愛い。

そうなのだ、三成くんは可愛いのである。よくしつけられた犬のように…と言ったら失礼かもしれないけれど…ひな鳥のごとく私の後ろをついて来て、何でもいうことを聞いちゃう可愛い弟ができた気分なのだ。
鍛錬に付き合ってあげると、ナマエ様はお強いです!と目をキラキラさせて私に食らいついてくる。
だから甘やかしてしまうのだ。

たとえ私と半兵衛さんと秀吉様の三人に、行き過ぎなほど盲信していても。

「ナマエ様…?どこかお具合でもお悪いのですか?」

そう尋ねる三成くんを見ていると、犬が目を潤ませてくぅんと鳴く空耳さえ聞こえてきそうだ。



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