《 三成視点 》
「だ、誰だお前は!」
逆光に立つ男の腰に下げた得物に怯えたのか震える坊主の声に、眦を上げた男はその坊主の真横の壁に刀を突き刺した。
「私が聞いているんだよ。君たちに、救いの道はあるのか」
彼は言い、鞘がついたままの腰の一振りで私の上に覆いかぶさっていた男を薙ぎ払う。
「もし君たちがその汚らしい手で祈っている仏が君たちを救うなら、私が君たちを断罪してあげよう」
そしてスラリと鞘から刀を抜き、私をこの部屋に引き込んだ坊主の首筋にピタリと刃先を定めた。
「どうだい?今の気分は」
そこで彼は微笑んだ。私にはそれはまるで菩薩の微笑みのように穏やかで、美しく見えたけれど、恐怖に駆られた坊主にはそれはなによりもそれを煽るものだったらしく、我先にと部屋から飛び出した。
一人残された私の傍に、その人は刀を収めて膝をつき、手首にまとわりつく縄と口の布を取り除いてくれた。
「有り難う…ございます…」
「いいえ、君に大事がなくて良かったよ、」
そこでその人は言葉を切り、私の唇から流れる血に気づいたのか眉をあげた。
「綺麗な顔になんてことするんだろうね」
親指の腹でそれをぬぐい、手拭いで拭き取ってくれる。
私は心臓の音がうるさく顔が熱くなるのを止められなかったが、その人はそれを恐怖から抜け出したことからの安堵によるものだと勘違いしたらしく、微笑んで頭を撫でてくれた。
そのあたたかさに不覚にも本当に気が緩んでしまったようで、私はそのまま気を失うように眠ってしまったのだった。
そんな私の体を抱えてその人が和尚と秀吉様を説得し大阪城に連れ帰ってくれたのも、その人が私が敬愛することになる竹中ナマエ様であることも、私はまだ知らない。
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