ソファの前にあるちゃぶ台に湯呑みをおいて、私は大谷さんの前の床に座った。大谷さんは湯呑みを持ち上げたけど、口をつけようとしない。
「あれ、熱いですか?氷いれます?」
「我が口をつけたらこの湯呑みは使えなくなるであろ。かようなものでなく、もっと他のものを…」
大谷さんに渡したのは、一人暮らしをする際にお母さんが渡してくれた、ちょっとお高めな湯のみだった。大谷さんはそれを気にしてくれているらしい。
「あのですね、大谷さん」
私は大谷さんの手から湯呑みを取り、ひとまず机におく。そしてそのまま手を握る。大谷さんはビクッとして手を引こうとするけど、私はぎゅっと掴んだ。
「大谷さんのこの病は、なかなか人にうつらないものなんです。一緒に暮らしていても、うつる可能性は極めて低いらしいし、健康にしていればそもそも発症しないと聞いたことがあります。そんなものを恐れて、あなたを差別したり疎んだりは、私はしたくありません。」
包帯がきっちり巻かれた指に自分の指を絡めて、ぎゅーっと握った。目をパチクリさせる大谷さんは至極天使でマジ可愛いけど、今がそんなことをいう場面じゃないってことくらいわかる。ハイ。スイマセン。
「ぬしは、」
「まこと変なおなごって言いたいですか?」
笑い交じりにそう言うと、ふいと顔をそらしてしまう大谷さん。やっべー嫁に欲しい。真顔。
「ね、このお茶なかなかに美味しいですよ。飲んでみて下さい」
湯呑みを差し出すと、遠慮しながらも口をつけてくれる。はあもう天使降臨だわ可愛いわハイ。
げふんげふんしながらも私もお茶を飲み、腰を落ち着けた。