7 さみしい人

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背中にちょっと不名誉な言葉を聞いた気がしたけど、褒め言葉として受け取っておくことにする。お茶のための湯を沸かしながら、背中越しに大谷さんにはなしかけた。

「大谷さん、ここのこと受け入れてくれたんです?下手くそな説明しかできなかったですけど」

「ぬしの話を聞かずとも、ここがあの世界でないことくらいわかる。あのようなカラクリは、我のいた世では作れん」

大谷さんが指差したのは、生ぬるい空気をかき回す扇風機だった。首振り機能のあるそれを、大谷さんはコンセントを引っ張って自分のところに手繰り寄せ、その仕組みをじっくり眺めているらしい。

「それに、別にお前が忍びだろうが何だろうがどうでもよいこと。不治の病におかされ、いつ死んでもおかしくない我を拷問するなり殺すなりしたとて、なにも変わらぬことは明々白々。無駄よ、ムダ」

そう自嘲気味に笑う大谷さんを見ていると、なんだか無性に悲しくなった。
ああ、この人はそうしないと心の傷をごまかすことができないんだろうなあ、と、胸が痛くなる思いだった。
武将大谷吉継が患っていたのは、当時癩病、業病と呼ばれたハンセン病だという。前世の悪行のために今世でかかると言われた病気で、感染者はひどく差別され忌み嫌われたということ。
自分を卑下することで心を守ろうとするこの人を、ひどくかわいそうだと思った。それは同情や憐みの類でなく、言葉にするのは難しいけれど、単純にいえば守りたいという感情。

「大谷さん、」
「やれ、そのような眼で見るのはやめやれ。違う世にきてまで憐れまれるのは真っ平よ、マッピラ」

突き放すようにふられた手に、どうしようもなく大谷さんを遠く感じた。

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