2 大ファンです

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すごく悪い夢をみた。
ただ、迫ってくる黒い影から逃げる夢。逃げても逃げてもそれは後ろにぴったり張り付いてきて、しかも私の足はだんだん動かなくなり使い物にならなくなってしまう。夢の中の私は絶望して、そして…。
捕まるくらいなら、と持っていた短剣を取り出し、自らの首筋に当てた。

「っ!」

刃が薄い皮を破る瞬間、私は飛び起きた。息が荒い。相当うなされていたらしい。
夢でよかった、まだしにたくはない。
そう安堵した途端、部屋の異変に気づく。

「え?ん?」

目の前に輿が浮かんでいる。ふわふわと。

「えっ…え」

その上には、見覚えのある…見覚えのありすぎる姿があった。

「刑部ちゃん!?」

その瞬間私の頭の上に数珠がごつんと落とされる。あまりの痛さに頭を抱え、ついでに夢じゃないことも確かめられた。

「やれ、これはなんたることか。ぬしは間者か?この放っておけば野垂れ死ぬ身に、どこが遣わしたのやら」

ヒヒッ、と笑い私の顔を覗き込む刑部ちゃん(暫定)に、私は言葉を失った。

「えーっとー…あのー…」

「はやく言いやれ」

「あなたは大谷刑部少輔吉継さんです?」

「見ればわかるであろ」

見ればわかる…だと…。見た目的、そして私がいままで生きてきた世界の常識的には、目の前の人は不法侵入の大谷吉継コスプレイヤーである。そうとしか言えない。だけど、こんな不法侵入者現実ではあり得ない。だって輿浮いてる。浮いちゃってる。なんの仕掛けもなく(私の家の床のしたに強力な磁石とかがない限り)物が浮くような技術はまだないはずだ。
とりあえず、私が言うべきことは一つだろう。
私は勢い良く起き上がり大谷吉継(暫定)さんの手をつかんだ。

「大ファン…じゃなくてあなたを憧れ?懸想?お慕いしている者です!握手してください!」

いやもうつかんでおるであろ…というツッコミは興奮した私の耳には届かなかった。もうタイムスリップでもトリップでも自分の妄想でもどうでもいい。むしろ妄想だったら自分の脳みそグッジョブ。握った手は私よりも冷たいけれど体温を持っていた。

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