真顔で もたれかかる . 2人でじゃれったー 留文お題『真顔で もたれかかる。』 ・現パロで大学生または社会人くらい 手元から目を離し、外を見やると窓ガラスが曇っていた。やはり降り出したかと、文次郎は小さく溜め息をつく。心なしか室温も下がったようだが、隣に座る男の気配で特段寒いとは思わない。 数十分前まで、どちらが先に週刊少年誌を読むかを巡り、二人は熾烈なそして馬鹿馬鹿しい喧嘩を繰り広げていた。 久しぶりに急ぎの仕事も用事もない、とある休日。疲れきっていて何処かに出掛けようという発想はなく、読めずに溜まっていた漫画を読むことを両者楽しみにしていたらしい。 「今週のザンプを買ってきたのは俺だ!だから俺に先に読む権利があるっ」 「先週先に読んで、まだ読んでない俺にネタばれした阿呆はどこのどいつだ!信用ならん、俺からだ!」 「あれはてっきりおまえがもう読んだ後だと思ったんだよ!いいだろう、今週のメンマ楽しみにしてんだよ!」 「俺だって先に読みてぇよ!」 「やるか?」 「…よりによって休日に暴れたら、また管理人が怒鳴りこんでくるぞ」 「…それもそうだな。よし、間を取って一緒に読もう」 「…はぁ?」 そう言うと留三郎は強引に文次郎をソファへ押しつけて隣に座り、互いの太腿を跨ぐように漫画本を広げた。分厚いがさほど大きな雑誌でもないので、並ぶ身体は言わずもがなぴたりと密着する。 じんわりと服越しに伝わる体温に気もそぞろなのはどうやら己だけらしく、留三郎は待ちきれないとばかりに早速頁を捲り始めた。 次第に漫画の世界に引き込まれ、文次郎も最初の助平心など忘れて一緒に漫画に熱中する。けれど不意に、頬に息がかかる程近く顔を寄せ合っているこの状態に気付き、集中力が突然切れてしまったのだ。 体勢は変えず、横目で留三郎の姿を確かめる。彼は真剣な面持ちで、紙面上で激しい戦闘を展開する忍者たちに目を奪われたままであった。暫くずっと間近で眺めてみたが、分厚い漫画本に夢中の留三郎は文次郎が見ていることに気付く気配はない。 俺だけが初心な男子高校生かと、文次郎には目もくれず、ひとり紙面の前で百面相する留三郎を恨めしく睨む。 割と喜怒哀楽がはっきりしている留三郎は、漫画の中のキャラクターの言動にいちいち眉を顰め、ときには口をぽかんと開け間抜け面を晒し、大して興味のない場面では退屈そうに唇を尖らせ――眺めていて飽くことはない。ふわりと香る洗剤の香りは心地良く、こうして家で2人きりの時間を過ごす休日は久しぶりなのだと改めて実感する。 暫く漫画ではなく男をこっそり盗み見続けていたが、徐々に一人置いていかれたような気分に変わって、文次郎はまた1つ溜め息を洩らした。疾うに漫画への関心は薄れていたため、トンと彼の肩に頭を凭れ掛け、目を瞑る。そこで漸く「文次郎?」と名を呼ばれた。 「寝たのか?」 応えるのも億劫で寝たふりを決め込めば、留三郎は再び静かに頁を捲り出した。パサリと紙の擦れる音と共に、寄りかかる肩が僅かに揺れる。触れ合う部分は湯たんぽのように暖かく、ぽつぽつと窓を叩く寂しげな雨音も混ざり、あまりに穏やかな時間の流れに本当に瞼が重くなってくる。 *** 文次郎の意識が半分ほど夢の世界へ移行した頃、留三郎がおもむろに腕を持ち上げたようだった。完全に身体を預けていたため、バランスを崩した上半身は彼の膝元へと崩れ落ちる。 漫画とぶつかることを予測して思わず目を見開くと、きょとんと呆ける留三郎と目が合った。頭が落ちた先も、漫画本ではなく硬い太腿の上である。しかも衝撃を和らげる為に、丁寧に手のひらが差し込まれていた。所謂膝枕された格好で、文次郎は留三郎を見上げる。 「悪い、起したか?」 「な、おまえ、何して」 「ば、ばか!その体勢から起きあがったら…って、痛ってぇ!!」 飛び跳ねるように腹筋を使って起きあがったため、見事に真上にあった留三郎の額と正面衝突してしまった。自分の方が石頭とは言え、あまりの痛みに文次郎はへなりと男の膝の上に頭を戻す。留三郎の痛みは己以上だったようで、目尻に涙を溜めて此方を見据えている。 「文次郎、何しやがる!」 「おまえが急に変なことをするからだろうが!」 「膝枕してやろうとしただけだろう!」 「何故俺がおまえに膝枕されなきゃならん!」 「てっめぇ、人の厚意を!おまえが疲れているのなら、寝かせてやろうと思ってだな!」 「…そ、そうか」 気を利かせたのだと主張する留三郎に、文次郎は流石に申し訳なくなり「それは悪かった…」と言葉を濁した。柄でもないが甘えたように膝枕を甘受した態度を見せると、留三郎は単純な男なので少し口元を緩ませる。そして何を思ったか、柔らかく頭を撫でてきた。 文次郎は居心地の悪さを覚えながらも、開き直ってソファの上に両脚を持ち上げ、男の膝に頭を乗せたまま仰向けに寝そべる。男二人が使うのだからと大きめのサイズを買ったとはいえ、脚を伸ばすと脹脛はソファからはみ出し、ぶらぶらと宙に浮いた。 結局自らソファに横になり、ごろんと彼の膝の上で寝がえりを打つ。それを合図に留三郎の指がそっと動きを再開し、男の無骨な手に頭を撫でられた。くるくるとどこか楽しそうに髪を弄ばれる所作は、気恥ずかしさより呆れが伴う。 「おい…俺は子供じゃねぇんだぞ」 「大人しく完全に寝る体勢を整えたやつが何を言う」 「それとこれとは別だろうが」 「黙ってされとけよ。あーもうこんな時間になってたのか。昼飯、どうする?」 「朝飯遅かったし、腹はそこまで減ってねぇ」 「なら昼は抜いて、夕飯早めに食うか」 「冷蔵庫何もねぇぞ」 「水曜に買ったきりだもんな。わかった、後で買い物行ってくる」 「外、雨降ってる」 「げ、いつのまに」 「……買い物、俺も行く」 「おう」 留三郎がクククと喉を鳴らしているのがわかったが、見て見ぬふりをして男の腹に顔を埋めた。 「せっかくだから買い物まで寝かせろよ」 「…ザンプはいいのか?」 「…後で読む」 「おう、寝とけ」 . 戻る TOP |