magnet . 「夢を見るんだ」 「夢?」 「何度も、同じ夢を」 そう言って、文次郎は情事の後の気だるい上体を恋人にもたれかけた。 冬のしんと静まる夜。布団の脇に置かれた火鉢がパチパチと控え目な音を立て、仄かに互いの顔を闇夜に映し出している。けれど肌を合わせて並ぶ二人に、最早明かりも暖も必要ない。 珍しい文次郎からの甘えに、留三郎は些か驚いた様子を見せながらもその重さを受けとめた。雪崩れるように布団へ転がると、ごつんと額を突き合わせ、互いの胸の前で両手を絡める。そんな女々しい自分の行動に彼は目を丸くして、いよいよ心配そうに眉を顰めた。 「文次郎?」 「ん…」 「どんな夢なんだ?」 「おまえが死ぬ夢」 間髪いれずに応えた回答に、恋人は呆気にとられていた。 続いて文次郎が握りしめる指に力を込めれば、男に負けずとぎゅっと強く手を握り返される。ぶつかり合う額は、乱暴にこちらの眉間へぐりぐりと押しつけられてきた。留三郎は、励まそうとしているのだろう。自分たちにとって身体は言葉よりときに雄弁に、そして素直に感情を表出してくれる。 「何を馬鹿なことを抜かしてやがる」 「…俺は本気だ」 「勝手に人を殺すんじゃねぇ」 「……そうだな」 その言葉に絡み合っていた指を解いて、彼の唇をなぞる。先程まで甘い呻きを洩らしていた其処は、既にひんやりと冷たい。それさえも何故かきゅっと胸を締め付けて、文次郎は誘われるままに自らの唇を押しつけた。 勢いよく下唇に噛みつけば、留三郎はびくりと肩を跳ねさせて身を捩る。 「も、文次郎…?」 「留三郎…もう一回しようぜ」 「は?だが、明日。おまえは実習だろ…?」 「うるせぇ」 「…ッ!もん、じ…」 そのまま耳元へ舌を這わせると、再度男の身体がぶるりと身悶える。啄ばむように耳たぶに口づけるも、混乱した様子の留三郎に肩を押し返されてしまう。 抱き寄せて欲しい 確かめて欲しい 間違いなど無いんだと 思わせて キスをして 塗り替えて欲しい 魅惑の時に 酔いしれ溺れていたい 「文次郎。何があった…?」 「……」 「…文次郎?」 「……」 「……」 「…忍びとしておかしいと思うか?」 その問いかけに、今度は留三郎が押し黙る。じっとこちらを見据える瞳を、文次郎も躊躇いなく真っ直ぐに見つめ返した。ふっと空気が張り詰め、僅かな衣擦れの音すらも気配を消す。 「所詮、学園にいる間だけの時間だ」 「…ああ」 迷い込んだ心なら 簡単に融けてゆく 優しさなんて感じる暇など 無い位に 強烈な既視感を振り払うように、文次郎はぎゅっと恋人を抱き締めた。男の首筋に噛みつくと、じわりと鉄の味が口の中に広がる。 留三郎は恐ろしく丁寧な所作で、ただ己の髪を梳いていた。 繰り返したのは あの夢じゃなくて 紛れも無い現実の俺達 触れてから 戻れないと知る それでもいい… 誰よりも大切なあなた . 戻る TOP |